50年の流れが産んだ「実演家概論ー権利の発展と未来への道ー」

棚野正士備忘録

IT企業法務研究所(LAIT)代表研究員 棚野正士

 実演家の権利に係る50年の時間から美しい本が生まれた(CPRA編・勁草書房発行)。外観が美しいだけでなく内容が美しい。実演家の権利に関心を寄せる内外の学者15人(他に翻訳者としての学者3人)がそれぞれの角度から実演家の権利を論じている。  「実演家概論ー権利の発展と未来への道」は実演家の権利史上初めての理論書である。1961年のローマ条約から数えて52年、1965年芸団協発足から48年、1993年CPRA設立から20年、この長い時間が一冊の本を産み出した。  CPRA(1993年発足)は20周年のためのプロジェクトチームを2009年に設置し、組織運営にかかわる膨大な資料を「CPRA20年史」をつくるための「年表」として整理してきた。「実演家概論」はこの地道な作業の中から、20周年記念事業として芽を出し誕生した。「CPRA20年史」は「実演家概論」を裏付けるために、後日発行が予定されている。  CPRA(実演家著作隣接権センター)は実演家、事業者、制作者等が一体になった組織である。野村萬会長2001年の年頭所感(雑誌「パフォーマー2001年冬号Vol.44」)にその基本精神を読み取ることができる。  「世阿弥は「習道書」においてさらに、座員各自の協調と調和なくしては一座の成功も繁栄も望めない。演者のみのこととも、一座・一団体のこととも限りますまい。実演家・演出家・制作者など直接芸能の発信に関わる人々、そして、事業者など受信者(観客・聴衆等)との仲立を担う人々、芸能に携わる人々のすべてが、個々の利害を超え、芸能の原点に立ち帰って、志高く歩みを共にし、力を結集して事に当たることこそ、時代の要請に応え、日本の芸能の未来を切り開く道であろうと思うのです。」 実演家、演出家、制作者、事業者など芸能に携わる人々すべてが芸能の原点に立ち帰って力を結集する組織がCPRAである。  「実演家概論」の巻頭論文で阿部浩二先生は「19世紀のドイツの歴史法学者イエリングは、その著「権利をめぐる闘争」で、法の目的は平和だが、それを得る手段は闘争である。」と述べている。CPRAは芸能の原点に立ちつつ、本書を武器としてすべての関係者が心を一つにして“闘争”しなければならない。社会はそれを期待している。  世界的に誇り得る組織であるCPRAが編集し、文化性と伝統性に支えられた勁草書房から出版された「実演家概論ー権利の発展と未来への道ー」は実演家だけでなく、実演芸術を愛する国民が広く読むに値する書である。  なお、本書の内容はLAITホームページ「C-Japan」をご覧頂きたい(2013.12.5掲載)。www.lait.jp「C-Japan」

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