「高知県産業振興計画の中間取りまとめ」に関する意見

棚野正士備忘録

(本稿は、2008年11月「高知県産業振興計画の中間まとめ」に関して、県が募集したパブリックコメントに対して提出した意見である。)

“知的財産立県”の提唱 −高知の「知」は知的財産の「知」−

IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士

1.知的財産立国の流れ(知的財産国家戦略)

 2002年から国は国家戦略として知的財産戦略を掲げている。その大まかな流れは次の通りである。

  1. 知的財産とは何か(知的財産基本法第2条第1項) 「この法律で「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。」
  2. 2002年7月3日に決定された知的財産戦略大綱は、「「知的財産立国」の実現」を掲げ、「「知的財産立国」とは、知的財産をもとに、製品やサービスの高付加価値化を進め、経済・社会の活性化を図る国づくり」であると指摘している。
  3. 知的財産戦略大綱を受けて、2003年3月1日から知的財産基本法が施行され、同時に知的財産戦略本部(本部長は内閣総理大臣、本部員は各国務大臣)が設置された。
  4. 知的財産戦略本部は、2004年から毎年「知的財産推進計画」を発表し、多分野に跨る知的財産戦略に関する政策を総括的に取りまとめている。

2.知的財産立県の提唱

  1. 知的財産立国という国家戦略に基づく知的財産推進計画を受けて、地域戦略として高知県が、「高知県知的財産推進計画」(仮称)を毎年作成するとどうかと考える。このことは知的財産基本法第6条(地方公共団体の責務)(下記注)にも合致する。高知県こそ全国に先駆けて、この地域戦略をリードしてほしい。何故なら、高知の「知」は知的財産の「知」であるからである。 なお、「産業振興計画の中間取りまとめ(個表)・観光分野」によると、「2010年のNHK大河ドラマ“龍馬伝”を契機とした新たな観光戦略の展開」がこれからの対策として取り上げられており、「知的財産推進計画」を2010年に発表すると時宜にかなうと考える。 (注:知的財産基本法第6条:地方公共団体は、基本理念にのっとり、知的財産の創造、保護及び活用に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。)
  2. 国の「知的財産推進計画2008」はさまざまな角度から課題を取り上げているが、これらは県の「知的財産推進計画」を作成する場合にも参考になると考える。 以下は、国の「知的財産推進計画2008」から県の「知的財産推進計画」に役立ちそうな項目をランダムに抜き出したものである。なお、国の「知的財産推進計画2008」の基本的考え方は“世界を睨んだ知財戦略の強化”で“世界最先端の知的財産立国を目指す”ことにあるが、この基本的考え方は、県の場合にも通用すると考える。
    • マンガ、アニメを初めとする日本のコンテンツの創造、流通の促進、コンテンツ産業のグローバル展開
    • 文化、芸術、芸能を軸にした事業の展開
    • 植物品種保護制度の整備と調和の促進
    • 植物新品種の海外での権利化促進
    • 優れた日本食、食材を生み出す
    • 知的財産に関する人材育成支援
    • アジア諸国とのコンテンツの共同制作の促進
    • アジアなど諸外国との連携強化
    • 海外の大学との交流促進
    • 海外展開を目指すコンテンツ事業者の支援
    • 地域のコンテンツ産業の支援
    • ネット上の意思表示システムの構築
    • 青少年の創作活動支援
    • 新技術等の保護、新市場の創出
    • 大学レベルの人材育成
    • アジア域内の優秀な人材の交流促進
    • 食文化、地域ブランド、ファッション、コンテンツ、伝統文化等の分野横断的な地域ブランドの確立と世界への発信
    • アニメ、音楽、映画等の映像コンテンツをはじめ、観光、ファッション、食、工業デザイン等のあらゆる分野において地域の魅力を発信する。
    • 外国人観光客を対象として、地域の食、地域ブランド、ファッションなどを取り入れた観光ツアーやイベントを企画・提案する関係者の取り組みを支援。また、官民が取り組む各種イベントについて、海外メディアなどに対する積極的な情報発信
    • 世界に通じる食を担う多様な人材を育成
    • 海外における日本食レストランの信頼向上を支援
    • 地域の農林水産物・食品のブランドを保護
    • 地域産食材の信頼を高める。
    • 地域産農林水産物・食品の輸出を拡大
    • 国民運動として食育を推進
    • 地域のファッションを世界ブランドとして確立
    • 人材の育成と国民意識の向上
    • 学校における知的財産教育を促進
  3. なお、前項の諸施策の内、高知県は南国の風土を生かして、植物・魚類・農水産物に関する課題、食に関する諸問題に力点を置くとどうかと考える。又、未来に確かな視線を向けて人材育成に力を入れてほしい。高知県が日本の頭脳センターになることを期待したい。

3.高知県産業分野振興計画中間取りまとめ「観光分野」について

 中間取りまとめ(個表)において、2010年NHK放送予定の大河ドラマ「龍馬伝」を契機とした新たな観光戦略の展開を、これからの対策として取り上げ、特に「大河ドラマ館」や「地域のサテライト館等」を核とした取り組みを謳っている。 この大河ドラマ館に関して、2008年10月31日付け高知新聞によると、JR高知駅前への仮設案と帯屋町1丁目の新京橋プラザを活用する案が比較検討されているようである。  しかし、中間まとめがいう「「龍馬伝」を契機とした観光戦略の展開」として大河ドラマ館を考えるのであれば、この二つの候補地だけで考えるのは不十分ではないか。もっとも、「観光戦略の展開」として検討するのではなく、地元の競争の調整として考えるのであれば、それは県外に住む者が口を挟む事ではないが。  もし、“知的財産立県”の観点から、観光戦略として検討するとすれば、次の通り考えられないか。

  1. 候補地は月の名所で日本国民に知られている桂浜にする。桂浜は太陽を受け太平洋を望み、本山白雲制作の傑作である坂本龍馬像がある。又、公園には高知県立坂本龍馬記念館があり、桂浜水族館がある。広く国民に知られている桂浜こそドラマ館設置場所として相応しいのではないか。 「龍馬伝」は「「幕末史の奇跡」と呼ばれた風雲児・坂本龍馬33年の生涯を、幕末屈伸の経済人・岩崎弥太郎の視線から描くオリジナル作品」であり、「名も無き若者が世界を動かす「龍」へと成長していく姿を、壮大なスケールで描く青春群像劇」(NHKドラマホームページから)であることを考えると、その大河ドラマ館の設置場所は桂浜以外にはないと考える。それは、高知の県民感情であり、日本人の国民感情に添うものであると考える。
  2. もし、既に高知駅前への仮設が内定している場合は、高知駅前を第1会場にして、桂浜を第2会場にするとどうか。それと、その間に位置するはりまや橋を補助的第3会場にしたらどうか。 そうすれば、高知駅前―はりまや橋―桂浜を結ぶ南北の大河ドラマルートが出来、このルートを今後観光戦略のX軸として発展させていけば良い。そして、Y軸ははりまや橋を中心とする東西ルートである。この場合、X軸とY軸が交わるはりまや橋が東西・南北の基点として重要である。はりまや橋は抜群の知名度を持ち強力なブランド力を有しているが、現実の橋は余りにも無思想である。はりまや橋は高知県のブランド力を象徴するものでなければならず、同時に訪れる人々の心を捉える高知県の心が表出されていなければならない。高知県の心とは暖かい“おもてなし”の心である。橋は単なる建造物ではなく、その土地の歴史、文化、精神を象徴するものである。X軸、Y軸の起点となるはりまや橋は、観光戦略の第一歩として建て替えるべきではないか。ドラマ館という一時的建造物をつくるより、半永久的価値を有するはりまや橋にこそ、投資すべきではないか。 しかしながら、2010年には建て替えは間に合わないので、大河ドラマ館として、狭いという難点はあるが、現在のはりまや橋の地下空間をドラマ館補助施設として使ったらどうか。 又、桂浜も、もし坂本龍馬記念館の一角がドラマ館として使えれば、その場合も施設建設費が不要となり、新たな施設建設費は高知駅前の施設だけになる。 なお、高知駅からはりまや橋を経由して桂浜にいたる南北ルートの途中には、日曜市から高知城に続く横ルートがあり、それによって観光戦略ルートが立体的になると考える。

以上

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