エッセイ(CPRAnews No.37,2006年12月1日掲載)

棚野正士備忘録

棚野正士 IT企業法務研究所 代表主任研究員

 CATV事業者との5団体契約についての争いで、本年・2006年10月10日最高裁の決定が出されて、それにより昨年・2005年8月30日の知財高裁での芸団協逆転勝訴が確定したことを知り、すぐ雑司が谷霊園に眠る故久松保夫・芸団協専務理事のところに報告に行った。その時思ったのは、争いであれ、運動であれ、資料の裏付けがなければ勝てないということである。 勝ったのは、藤原浩弁護士を中心とするCPRA弁護士の底力であり、その背景には“資料”という武器があったと推察する。資料は歴史的記録、研究成果などの“文献”であり、そのほとんどは、CPRA事務局のお隣りにある著作権情報センター(CRIC)資料室に眠っている。CRIC資料室は“宝庫”であり、権利者が戦う場合の強力な武器庫である。今回、先生方はその武器庫を活用されたように思う。 1977年、久松専務理事から私的複製問題に取り組めと言われた時、何の知識も持たないわたくしにとって、最初の手がかりになったのは、著作権資料協会(CRICの前身)の「コピライト」に掲載されていた斎藤博先生の“西ドイツ方式”の研究であった。権利者団体が運動を始めて15年を費やして生まれた私的録音録画補償金制度の根っこには、斎藤先生をはじめとする学者の方々の学問的研究があった。 これは一つの例であるが、運動は常に研究が先行する。研究成果は文献の中に息を潜めて掘り起こされるのを待っており、それを生かさない運動は武器なき戦いであり、根のない草である。次の世代のためにも、実演家の権利に関する文献を収集整備し、又自ら研究して成果を蓄積し、武器庫を整えることも大切なことではないだろうか。 (07年8月追記)著作権情報センター(CRIC)資料室(司書 西田真希さん)は著作権を中心とした知的財産権に関する国内外の膨大な図書・文献を所蔵しており、著作権・知的財産権研究のメッカである。所蔵文献の中には、政府の著作権審議会の答申・報告書をはじめ、各種の調査報告書等ここにしかない歴史的資料が数多く含まれている。蔵書数は18,000冊以上(外国文献6,000冊以上)に昇り、日本で唯一の“著作権図書館”として期待が寄せられている。10年前に開設され、広く国民に公開されている。住所:東京都新宿区西新宿3−20−2 東京オペラシティタワー11階。電話:03−5353−6921。公開:平日 10:00−17:00(除 12:00−13:00)。

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