グーグルが仏新聞・雑誌業界向けに基金設立へ、デジタル出版支援で「リンク税」回避

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グーグルが仏新聞・雑誌業界向けに基金設立へ、デジタル出版支援で「リンク税」回避

 仏政府と米グーグルは1日、グーグルが6,000万ユーロを拠出して、仏新聞・雑誌業界によるデジタル化の取り組みを支援するための基金「Digital Publishing Innovation Fund」を設立することで合意したと発表した。新聞社の業界団体などは、Google Newsの検索結果に無断で記事のタイトルや要約を掲載する行為は著作権侵害にあたると主張し、グーグルに対してライセンス料を支払うよう求めていたが、最終的に仏政府が仲介する形で妥協が成立した。

 オランド仏大統領とグーグルのシュミット会長が1日にパリで会談を行い、基金設立に関する協定締結で合意した。シュミット会長はブログで、基金はフランスの読者のために「デジタル出版の推進を支援する」ためのものと強調している。
グーグルはこのほか、仏出版業界との関係を強化し、新聞社や雑誌社がグーグルのオンライン広告サービスを活用して、収益拡大を図る手助けをすることでも合意した。一方、新聞・雑誌業界は、グーグルに対する記事利用への対価(いわゆる「リンク税」)の支払い要求を取り下げている。

 ネット上でのコンテンツ流通に伴い新聞や雑誌の発行部数が落ち込むなか、欧州ではグーグルをはじめとするインターネット検索サイトがニュース記事の抜粋などを掲載する際、対価の支払いを義務付けるルールの導入が検討されている。
ドイツでは現在、検索サイトやニュースアグリゲーターに自社コンテンツの抜粋やサイトへのリンクが掲載された場合、新聞社などは著作権管理団体を通じてライセンス料を徴収できるとする内容の法案が審議されており、フランスでも昨年、同様のルールを導入する計画が持ち上がった。グーグルはこうした動きに対し、「ネット上の自由な情報の流通が阻害される」などと強く反発。仏政府に対し、ライセンス料の支払いが義務化された場合、仏メディアのコンテンツをGoogle Newsの検索結果からすべて排除すると通告するなど、徹底抗戦の構えをみせていた。

 こうしたなかでオランド大統領は昨年10月にシュミット会長と会談を行い、グーグルは仏メディアの記事利用に対して「正当な対価を支払っていない」との考えを表明。そのうえで、双方の話し合いによる解決が望ましいとして早急に出版社などとの交渉に入るよう要請し、年内に妥協点が見いだせない場合は法制化の手続きを進めることになると警告していた。

 ニュースサービスでの記事利用に関するグーグルとメディア企業の対立をめぐっては、ベルギーで昨年12月、新聞社の利益を代表する著作権管理団体と同社の間で和解が成立した。ベルギー国内でフランス語とドイツ語の出版物の著作権管理を行うコピープレッセ(Copiepresse)は2006年、Google Newsの検索結果に新聞記事の抜粋を表示することや、ウェブ上での検索結果に記事へのリンクを表示することは著作権侵害にあたるとしてグーグルを提訴。6年以上にわたり訴訟が続いていた。

 記事利用に際してグーグルが発行元などにライセンス料を支払う義務は和解条項に盛り込まれていないが、同社は新聞社の収益拡大に向け、電子版の有料化やモバイル端末へのコンテンツ配信などを技術面で支援するほか、発行元のサイトに広告を出稿することで合意した。さらに、ベルギー側が訴訟や交渉に要した費用(推定で総額500万ユーロ)を全額負担することでも合意したとされる。

 フランスとベルギーのケースではメディア側がグーグルから一定の譲歩を引き出すことに成功したが、当初求めていた記事利用への対価という形はとられておらず、根本的な問題解決には至っていない。当面はグーグルに対して強硬な姿勢を崩していないドイツでの法案審議に注目が集まりそうだ。

(The Wall Street Journal, February 1, 2013 他)

(庵研究員著)

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