欧州議会がACTA批准案を否決、他の条約署名国に波及も

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欧州議会がACTA批准案を否決、他の条約署名国に波及も

 欧州議会は4日の本会議で、知的財産権の執行のための国際的な枠組みとなる「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」について採決を行い、反対多数で批准案を否決した。EU加盟国は昨年12月に全会一致でACTAへの参加を承認し、今年1月にはEUおよび域内22カ国が条約に署名したが、欧州議会の同意が得られなかったためEUはACTAの批准を見送る。

 ACTAは模倣品や海賊版の増加に歯止めをかけるため、日本と米国が2006年に提唱した構想で、昨年10月に日本、米国、カナダ、韓国、シンガポール、豪州、ニュージーランド、モロッコの8カ国が署名。EUがこれに続いた。しかし、条約に盛り込まれたインターネット上における知的財産権侵害対策をめぐり、プライバシーや言論の自由といった基本的権利が制限されることへの懸念から、EU市民の間でACTAに反対する抗議運動が広がり、一部の加盟国は批准手続きを凍結するなど先行きが不透明になっていた。

 欧州委員会はACTAを支持する立場から、知的財産権の執行基準を国際的に調和させることが条約の目的で、既存のEUルールに変更を求めるものではないとの説明をくり返す一方、2月にはEU司法裁判所に対してACTAがEU法に合致しているかどうかの判断を求めた。こうしたなか、欧州データ保護監視官局(EDPS)は4月、現行の条文では権利侵害に対する措置とプライバシーや個人情報保護のバランスが十分に尊重されているとはいえず、EUの基本権憲章およびデータ保護法に抵触するとの見解を表明。その後も欧州各地でACTAに反対するデモが展開され、欧州議会には280万人が署名した批准否決の請願書が提出された。
欧州委は欧州議会に対し、裁判所の見解が出るまで採決を見送るよう要請したが、6月末までに司法委員会や国際貿易委員会などで相次いで批准案が否決されていた。

 本会議ではまず、司法裁が見解をまとめるまで批准案の採決を延期するかどうかについて投票が行われ、反対多数で延期案を否決。最終的にACTAの批准案は賛成39票、反対478票、棄権165票で否決された。

 欧州委のデ・グフト委員(通商担当)は声明で「言うまでもなく、知的財産保護の問題は世界的規模で取り組む必要がある。ACTAの批准が拒否されても、欧州経済を支えるイノベーションや創造性を保護する必要がなくなることは決してない」と強調。EU司法裁の判断を待って対応を検討すると述べ、ACTAへの参加に向けてあらゆる可能性を模索する考えを示唆した。ただ、現行の条文のまま欧州議会の承認を得ることは現実的に不可能。ACTA自体は6カ国が批准すれば成立するが、EUの動きが条約に署名している他の国に影響を及ぼす事態も予想される。

(Associated Press, July 4, 2012 他)

(庵研究員著)

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