米Aereoが地上波のネット再送信サービス開始、主要ネットワークは著作権侵害で相次ぎ提訴

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米Aereoが地上波のネット再送信サービス開始、主要ネットワークは著作権侵害で相次ぎ提訴

米新興企業Aereoは14日、ニューヨークでインターネットを介した地上波テレビの再送信とクラウド録画サービスを開始した。対応するデバイスがあればアプリケーションをインストールしたり新たに機器を購入する必要はなく、ABC、CBS、NBC、Foxなどのネットワーク系列を含む20チャンネル以上の地上波放送をライブ視聴できるほか、ネット上のサーバーに観たい番組を録画して、好きな時に視聴することも可能。さらにFacebookやTwitterを通じて加入者同士がつながり、リアルタイムで番組についてコメントしたり、友人に番組を薦めることなどもできる。

 Aereoの利用料金は月額12ドル。対応機器は当面、米AppleのiPhoneやiPad、米Rokuのセットトップボックスなどに限定されるが、近く米GoogleのAndoroid搭載機器やパソコンでも視聴できるようになる。現在は招待制になっており、Aereoのサイトでメールアドレスを登録すると90日間の無償トライアルを利用できる。

 地上波テレビ放送をケーブルテレビ(CATV)や衛星テレビなどで再送信する場合、ペイテレビ事業者はテレビ局に再送信料を払わなければならない。インターネットで地上波放送を再送信する試みはAereoが初めてではないが、再送信料を払わずにサービス展開した米Ivi TVは昨年、主要テレビネットワークや番組供給会社に訴えられ、裁判所から業務停止命令を受けている。AereoはIvi TVなどとはまったく異なるメカニズムを採用しているため、再送信料を支払う必要はないと説明しているが、主要テレビネットワークは早くも著作権侵害でAereoを提訴している。

 Aereoのサービスは無数の超小型アンテナを集積した箱状の特殊な装置をニューヨーク周辺の数カ所に設置し、サービス加入者にアンテナへのアクセスを提供して各世帯に1チャンネルずつ送信するのが特徴。加入者のリクエストに合わせて個々のアンテナが地上波の番組を受信し、それをブロードバンドでストリーミング送信する仕組みになっている。

 箱状の装置はいわば「テレビチューナー」にあたり、チャンネル選択や録画予約などの操作はブラウザを使って加入者自身が行うため、合法的な個人向けのネット再送信にあたるというのがAereoの主張だ。創設者で最高経営責任者(CEO)のChet Kanojia氏は、Aereoのサービスは個々の視聴者とクラウド上のアンテナをつなぐ「ケーブル」の役目を果たしているにすぎず、CATVなどとは本質的にビジネスモデルが異なるため、公衆送信権の侵害にはあたらず再送信料は発生しないと説明している。

 しかし、主要テレビネットワークで構成する2つのグループは3月1日、著作権侵害でAereoに対する訴訟を相次いで提起した。先に訴えを起こしたFox, CW,Univision,PBSは声明で「新たな動画送信技術を阻止することが訴訟の目的ではなく、著作権侵害と無許可の番組再送信を止めさせるために法的手段をとった」と説明。一方、ABC, CBS, NBCは「Aereoのサービスは地上波テレビが提供するコンテンツの不正な利用をベースにしており、違法行為であることは明らかだ」と指摘している。New York Times紙によると、両グループはAereoに対し、サービスの即時停止と損害賠償を求めている。

 テレビネットワーク側の反発を無視してAereoがサービス提供に踏み切った背景には、米ケーブル大手Cablevision Systemsが2006年に開始した「ネットワークDVR」と呼ばれるリモートストレージ型DVRサービスを合法と認定した、2009年の連邦最高裁判所の判決がある。リモートストレージDVRシステムはユーザーが録画予約したテレビ番組を個人の録画機ではなく、事業者側の中央サーバに蓄積し、各家庭のセットトップボックス(STB)を使って番組を再生する仕組みだ。

 Cablevisionのサービスでは中央サーバに蓄積した番組を無許可でコピーして加入者に再送信することになるため、主要テレビネットワークや映画会社は著作権侵害にあたるとして同社を提訴し、第一審は原告の主張を認めてCablevisionに計画の差し止めを命じ。Cablevisionはこれに対し、録画した番組はケーブルネットワークのサーバーに保存されるものの、実際にコピーの操作を行うのはサービス加入者であるため「私的使用のための複製行為」にあたり、リモートストレージDVRは通常のDVRと本質的に同じサービスで著作権侵害にはあたらないと反論。最終的に同社の主張が認められ、リモートストレージDVRシステムの合法性が確定している。

(Aereo Press Release, March 14, 2012 他)

(庵研究員著)

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