実演家・レコード製作者の権利の保護期間、EU加盟国が70年に延長する法案採択

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実演家・レコード製作者の権利の保護期間、EU加盟国が70年に延長する法案採択

 EU加盟国は12日開いた閣僚理事会で、実演家およびレコード製作者の権利の保護期間を現行の50年から70年に延長することを柱とする「著作権・著作隣接権の保護期間に関する指令(2006/116/EC)」の改正案を賛成多数で採択した。
多くの実演家が晩年に深刻な収入減に直面している現状を改善し、すでに死後70年となっている作詞家や作曲家などの著作権保護期間に近づけるのが狙い。
欧州議会は2009年に改正案を可決しており、閣僚理の採択をもって著作隣接権の保護期間延長が確定した。加盟国は新ルールに沿って2年以内に国内法を整備することが義務づけられる。

 2006年の現行指令によると、歌手や演奏家、レコード会社などに与えられる権利の保護期間は実演またはレコードやCDの発行などから50年となっている。これは米国(実演後95年)や豪州(70年)などと比べても短く、実演家の生存中に著作隣接権が消滅するケースも少なくない。現行制度の見直しを求める声が高まるなか、欧州委員会は実演家が生涯にわたり安定的に収入を得られる仕組みを整えるため、2008年に保護期間を95年に延長する案を提示。欧州議会では70年とする修正案が可決され、その後、加盟国間で協議が続いていた。閣僚理は保護期間延長の理由について「一般に音楽家は若くして活動を開始するため、現行の50年では生涯にわたる保護が受けられず、晩年に収入の減少に直面するケースがある」と説明している。

 新ルールには保護期間の延長に加え、契約時などに実演にかかる権利をレコード会社に譲渡した実演家が確実に新制度の恩恵を受けられるようにするため、以下の施策が盛り込まれている:

1)スタジオミュージシャンのための基金
所属するレコード会社との契約に基づき、演奏料を受け取る代わりに実演にかかる権利を譲渡したスタジオミュージシャンが新たな保護期間に正当な報酬を得られるよう、レコード会社は著作隣接権の行使によって得た収入の20%を支払う。

2)実演家による権利の回復(「use it or lose it」条項)
レコード会社にCDやレコードを販売する意思がない場合、実演家はレコード会社に譲渡した権利を回復し、自ら販売することができる。一方、実演家とレコード会社の双方に販売の意思がない場合、著作隣接権は消滅し、パブリックドメインとなる。

3)使用料からの控除の禁止(「clean slate」条項)
レコード会社と結んだ当初の印税契約に費用控除の条項が盛り込まれている場合でも、延長された保護期間については同条項は無効となり、レコード会社は印税から費用を差し引くことはできない。

欧州委によると、著作隣接権の保護期間が50年のまま延長されない場合、英国だけで約7,000人の実演家が向こう10年間にすべての権利を失うとされる。一方、同委が行った影響調査によると、保護期間を70年に延長することで、平均的な実演家の収入は放送二次使用料を中心に、年間150−2,000ユーロ増加するとみられている。

 ただ、保護期間の延長をめぐっては、ごく一部のヒット曲からの収入が増えるだけで、大部分の実演家は延長の恩恵を受けないといった意見も根強い。
今回の閣僚理でもベルギー、チェコ、オランダ、ルクセンブルク、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スウェーデンの8カ国が改正案に反対票を投じ、オーストリアとエストニアは棄権した。

(Council of the European Union Press Release/Euroepan Commission MEMO/
Intellectual Property Watch, September 12, 2011 )

(庵研究員著)

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