個人情報保護ルールめぐり欧州委が英政府を提訴、ネット上の通信傍受が焦点に

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個人情報保護ルールめぐり欧州委が英政府を提訴、ネット上の通信傍受が焦点に

 欧州委員会は9月30日、インターネット利用者の個人情報保護について規定した英国の法律が、本人の同意がない通信の傍受や監視を禁止したEU法に抵触するとして、英政府を欧州司法裁判所に提訴すると発表した。インターネット関連企業がユーザーのオンライン行動に関する記録を利用して広告を配信する「行動ターゲティング広告」に関連して、欧州委は昨年4月、現行法では個人情報が十分に保護されない可能性があるとの見解をまとめ、英政府に法改正などの措置をとるよう勧告していたが、対応が不十分なため提訴に踏み切る。

 行動ターゲティング広告はネットユーザーのウェブ閲覧履歴を分析し、各人の興味や関心に合った広告を配信する手法。個々のユーザーに合わせた広告を効率的に配信できる点で企業と個人の双方にとってメリットがあるが、ネット上での行動が常に監視されるため、プライバシーの侵害を懸念する声が広がっている。
英国では通信最大手ブリティッシュ・テレコム(BT)が2006年から07年にかけてユーザーに通告せず、フォーム社が開発した技術を利用してトライアルを実施したことが発覚。プライバシー保護団体などから個人情報保護を監視する独立機関ICTや警察当局に対して多数の苦情が寄せられ、欧州委が08年から調査を進めていた。

 EUが2002年に制定した「プライバシーと電子通信に関する指令」は、本人の明確な同意がある場合を除き、傍受や監視を禁止して通信の機密性を確保することを加盟国に義務付けている。一方、1995年の「データ保護指令」は個人情報を取り扱う際、事前にその旨を本人に通知し、本人が自らの意思で明確に同意する必要があると規定している。

 英国でも「通信傍受に関する捜査権限規制(RIPA)」が不当な通信傍受を禁止しているが、インターネット接続業者(ISP)など傍受する側に「事前の同意があったとみなす合理的な根拠」があれば、通信の傍受や監視行為は合法とみなされる。また、EU法によると違法な傍受はすべて罰則の対象となるが、RIPAでは「意図的な」傍受のみに罰則が適用され、設定ミスなどの過失や偶然による傍受は制裁の対象とはならない。さらにEU法は加盟国に通信傍受を監視する独立した機関の設置を義務付けているが、英国には該当する機関が存在しない。欧州委はこれら3つの点で英国は通信の機密性について定めたEUルールを順守していないと結論づけ、欧州司法裁への提訴を決めた。
(European Commission Press Release, September 30, 2010 他)

(庵研究員著)

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