米コムキャストが新たな著作権侵害防止システムを考案、違法ダウンロードをコンテンツ販売のプラットフォームに

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米コムキャストが新たな著作権侵害防止システムを考案、違法ダウンロードをコンテンツ販売のプラットフォームに

 米ケーブルテレビ最大手コムキャストはインターネット上における著作権侵害対策の一環として、違法ダウンロードを合法的なコンテンツ取引のプラットフォームに転換するシステムを開発し、国内の大手映画会社、テレビ局、インターネット接続業者(ISP)との間で導入に向けた話し合いを行っているもようだ。

 エンターテイメント専門の業界誌『バラエティ』によると、コムキャストが考案したシステムは、ネットユーザーがピア・ツー・ピア(P2P)ネットワークを介して著作権保護された映画やテレビ番組を不正にダウンロードしようとすると、その場で著作権侵害行為である旨の警告文と共に、問題のコンテンツを合法的に購入またはレンタルできるサイトへのリンクがポップアップ表示される仕組み。違法ダウンロードを法的に取り締まるのではなく、合法的なコンテンツ利用を促すことで事業者側の収益拡大につなげる狙いがある。コムキャストは一部の加入者を対象に限られたコンテンツでトライアルを実施する方針だが、具体的な実施時期は決まっていないという。コムキャストの広報担当者はバラエティ誌の取材に対してコメントを控えている。

 米国では音楽・映画・テレビ業界の主要プレイヤーと大手ISPの合意に基づく自主的な取り組みとして、今年2月にネットユーザーによる不正なコンテンツ使用を警告する「著作権侵害警告システム(Copyright Alert System=CAS)」が正式に導入された。これはP2Pネットワークで違法コンテンツをダウンロードしたユーザーに対し、コンテンツオーナーの通知を基にISPが最大6回の警告を行い、改善がみられない場合はネットの通信速度を落としたり、利用できるサービスを制限するという内容。警告が最大6回であることから同システムは「6ストライク制(Six Strikes)」とも呼ばれる。

 コムキャストはAT&T、ベライゾン、ケーブルビジョン、タイム・ワーナー・ケーブル(TWC)などと同様、CASの制度設計や運用を担う著作権情報センター(Center for Copyright Information=CCI)の中核メンバーとしてプログラムに参加しているが、コンテンツオーナーの間ではスキームの実効性を疑問視する声が出ている。実際のところ、フランスでは3年前に違法ダウンロードを行っているネットユーザーに対して当局が警告を発し、3回目の警告で罰金命令とネット接続の断絶という厳しい措置を講じる「スリーストライク制」が導入され、「Hadopi」と呼ばれる公的機関が執行にあたっていたが、ネット遮断は基本的人権の侵害にあたるといった反発が根強く、政府は現行制度の大幅な見直しを余儀なくされた。

 こうしたなか、ISPであると同時にコンテンツオーナーでもあるコムキャストは「CASを補完するシステム」として、違法コンテンツをダウンロードしようとするユーザーに対し、リアルタイムで著作権侵害の警告と合法的なコンテンツ入手ルートへの誘導を行うアプローチを考案した。ただ、実際に同社の提唱する新システムが導入された場合、どのようにCASとの共存が可能かは不透明だ。また、違法ダウンロードを合法的なコンテンツ販売のプラットフォームとして活用するアプローチは、コムキャストなどのコンテンツオーナーにとって新たな収益を生む可能性がある一方、純粋なISPにとっては適正な手数料収入が保障されない限り、直接的なメリットはないようにみえる。

 さらに、1998年に制定されたデジタルミレニアム著作権法(DMCA)では、ISPなどが提供するサービス上に違法なコンテンツが含まれているという通知(notice)を受けた場合、該当するコンテンツを削除する(take down)する対応を取れば、プロバイダ自身はユーザーが行った著作権侵害行為について損害賠償などの責任を問われないという責任制限の枠組みが定められているが、これはプロバイダの役割はあくまでもユーザーから受け取った情報をネット上で公開するだけで、サーバーやネットワーク上で行われる行為に積極的に関与していないことを前提としている。これに対し、コムキャストが提唱するスキームではISPがコンテンツ販売に直接関与することになるため、プロバイダの責任制限に関する規定との整合性が問題になる可能性もある。

(Variety, August 6, 2013)

(庵研究員著)

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