欧州で絶版書籍の電子化計画が前進、図書館と業界団体が権利処理の原則で合意

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欧州で絶版書籍の電子化計画が前進、図書館と業界団体が権利処理の原則で合意

 欧州委員会は9月20日、欧州各国の図書館、出版社、作家、著作権管理事業者などで構成する10団体が、絶版になっている著作権保護期間内の書籍を電子化する際の原則を定めた覚書に署名したと発表した。今後は利害関係者による交渉で電子化やオンライン上での公開に関する条件を柔軟に決めることが可能になり、絶版になっている書籍や学術雑誌の流通に向けた権利処理が円滑に行われるようになる。

 欧州委によると、EUおよびEEA(欧州経済領域)域内では年間50万点を超える新刊書が発行されており、出版業界の市場規模は2009年時点でおよそ230億ユーロに上る。しかし、利益の見込めない多くの作品が早い段階で流通経路から姿を消しているのが実情で、文化的資産として極めて価値の高い作品が絶版になっているケースも多い。図書館などがこうした絶版書籍を電子化するには著作権者の許諾が必要だが、市場に流通している書籍と比べて著作権者に係る情報の入手が困難な場合があり、これが絶版書籍の電子化を妨げる最大の要因になっている。

 欧州委はこうした現状を踏まえ、2020年に向けた情報通信技術(ICT)分野の総合戦略「デジタルアジェンダ」および今年5月にまとめた知的財産権に関する政策文書で、著作権保護期間が存続しているものの、著作権者を特定できない「孤児著作物」と並んで絶版書籍の取り扱いを優先課題の1つと位置づけ、こうした書籍の電子化と利用に関する枠組みについて関係する各方面と協議を続けていた。

 覚書では市場に流通していない書籍や学術雑誌について、将来的な電子出版の可能性を踏まえ、「絶版(out of print)」ではなく「商業的利用が行われていない(out of commerce)」という用語が使用されている。こうした書籍や雑誌を電子化する際の権利処理にあたっては、著作権を尊重しつつ、利害関係者による自発的なライセンス合意に基づいて実施することや、1つの作品に関して多数の著作権者が存在する場合、原則として集中管理団体が一括して許諾を行うことなどが覚書に盛り込まれている。

 著作権保護期間内の孤児著作物に関しては、欧州委が今年5月に「特定の孤児著作物の許諾利用に関する指令(案)」をまとめ、現在、欧州議会と閣僚理事会で法案について審議が行われている。これに対し、絶版書籍の取り扱いに関する枠組みは拘束力を持つEU指令などではなく、業界団体の自主的な合意による覚書の形になった。この点について欧州委は「利害関係者による交渉を通じた柔軟な対応を可能にするため」と説明している。なお、今回の覚書は書籍と学術雑誌を対象としたもので、映画、ゲーム、音楽など他の著作物には適用されない。

(European Commission Press Release/MEMO, September 20, 2011 他)

(庵研究員著)

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