実演家の有線放送権に関する参考文献

棚野正士備忘録

(06.5.18 棚野正士)

実演家の有線放送権(立法趣旨)

  • 「放送事業者の権利としては第99条第1項の規定がありまして、放送事業者はその放送を受信してこれを有線放送する権利を専有することとされております。したがって、実演が放送されれば、その放送波の利用の問題は放送事業者の権利によって処理することとなりますので、その放送事業者の権利を通じて実演家の権利を実質的にカバーしてもらうことを予定して、法律上は、有線による同時再送信には実演家の権利が及ばないこととしたものであります。実演の放送についての許諾が放送を受信して行う有線放送までもカバーしていると考えたわけでは必ずしもございません。」(加戸・著作権法逐条講義四訂新版486頁)
  • 「放送事業者が行う放送を著作隣接権の目的とすることにつきましては、放送自体にある程度の創造性を認めるという観点もあることはありますが、むしろ、実演を公衆に伝達するもっとも有力な媒体としての性質上、実演家の利益を実質的に確保する手段として放送事業者に権利を認めるという発想が強いわけでございまして、その意味で、実演家がその実演の放送を許諾するに当って放送事業者との間にその実演の爾後の利用に関し特約を付することによって、放送の有線放送における実演家の利益は本項の規定による放送事業者の権利を通じて担保されているということができましょう。特にこのことは、実演の放送についての許諾が予想されていない場合が多い有線による区域外再送信に関していえることでございます。受信層の拡大が放送事業者にとっては利益に結びつく反面、権利を有しない実演家にとっては不利益を招来するわけですから、CATV等の発達を歓迎する放送事業者側においては、有線放送の許諾に当たって実演家の利益を十分考慮したうえで対処することが望まれます。」(加戸・著作権法逐条講義四訂新版557、558頁)
  • 「その次が放送権と有線放送権。この有線放送権に関しては、これは内容はほぼ条約と同じです。そしてこれについては、民放連のほうからご意見があったのは、放送される実演を有線放送する場合には権利を切ってますね。92条の2項の1号で。つまり放送される実演を有線放送する場合には、適用しないんですから、実演家に権利がないということになる。だから、CATVのときには実演家には権利がない。権利がないというのはどういうことかというと、いちばん最初に放送を許諾するときに、その後におけるCATVにおける利用を含めて契約をしなさいということですね。だから放送事業者が、あとで出てくる放送事業者の権利である99条の有線放送権を使って有線放送の許諾をするときには、実演家の分もめんどうをみてやるというふうに、この隣接権制度はなっているわけですね。だからそこのところがどうも放送事業者のほうとしては実演家のめんどうまでみるということになるとたいへんだから、そこのところを切ってくれということだったわけですけれども、ただそこのところは非常にやりにくい。そこを切ってしまうと、有線放送について実演家に正面から権利を認めるという手あてをしないと方手落ちになってしまう。そうすると、放送事業者は初めに契約をするときには番組をつくるんですから、それに伴って放送の出演契約を結んでいるということはご承知でしょうけれども、そこですでにいったん放送に使用された実演、そして実演家が切ってしまっている実演を有線で使うというときに、また有線放送事業者にその前実演家との契約をやり直せというのは、はなはだどうも実用にあわないではないかという問題がある。いずれにせよ、有線放送権というものを実演家に正面から認めてしまうことは危険ではなかろうか。という考えから、ここのところは今度の法案では直してございません。このままのかつこうにしてあります。」(日本民間放送連盟・著作権室発行第6回著作権研修会記録<1970.3>『文化庁文化部著作権課長佐野文一郎:著作権法案の放送をめぐる問題点について』)
  • 第68回国会衆議院逓信委員会議録(昭和47年5月31日)から 加戸説明員:実演家につきましては、その実演を放送したものをさらに再送信するいわゆる有線放送につきましては、著作権法上は権利がはずれております。つまり実演家の権利というものは、放送する段階で自分のみずからの権利を確保する。したがって、一度放送されたものについては、それが有線放送されるについては、放送事業者がもし権利を持っておればそれをチェックするということで、放送事業者の権利によって担保する、そういうシステムをとっております。 それで、いま御質問がございました件については、放送の、有線放送につきましては、法律上その権利が及ぶ場合と及ばない場合がございますけれども、たとえば非営利の場合については及びませんが、もし権利が及ぶ場合ですと、放送事業者がその同意を与えるにつきまして、有形、無形で実演家のほうからプレッシャーがかかるということは考えられますが、法律上のたてまえとしては、実演家には権利がございません。
  • 第68回国会参議院逓信委員会議録(昭和47年6月12日)から 説明員(加戸守行君):実は著作権法の上で、実演家には権利が、その実演の放送権及び有線放送権が規定されておりますが、実は、有線放送につきましては、生放送の有線放送権は動きますけれども、放送された実演をそのまま受けて再放送するCATVの場合につきましては、法律上その権利の内容からはずしております。ということは、立法しました段階で、実演家は、出演の際の放送契約を結ぶ際のワン・チャンス、一回だけの機会を与える。したがいまして、それが、将来、有線放送等へ流れていくという問題については、出演契約をした放送事業者を通じてその権利を担保するよりしか道がないということでございまして、出演する際に、これは有線に流れていくだろうということが予想される場合には、その出演の際に、その分の契約を放送事業者間の契約によってカバーする、そういうシステムをとっております。したがいまして、法律的には、実演家はCATVの再放送に際してはものが言えない。ただ、放送申請に対してCATVにライセンスを出すときには、実演家に対して何ぶんの補償をしろというような主張は事実上可能だと思います。 説明員(加戸守行君):法律的にはそのとおりでございます。事実上は、放送事業者間との契約において、もちろんCATVがテレビジョン放送を流します場合に、このようなたとえば再放送が義務づけられて、放送事業者の権利が飛んでしまっている場合にはどうしようもない。ただ、その放送事業者は、CATVに対してうちの放送をワイヤーで、有線ケーブルで流してよろしいという許可を出すわけでございますから、その権限を持っている放送事業者に対して、実演家が事実上の要求をするということによって、ある程度権利をカバーするということは不可能ではないと考えます。
  • データベ−ス・ニューメディアに関する「著作権法の一部を改正する法律草案(文化庁試案)」について(要望)(昭和61年1月31日)から 現行第92条第2項第1号を削除し、放送の有線放送による同時再送信について、実演家の権利を認めて頂きたい。 (理由)「放送される実演を有線放送する場合」には、実演家の有線放送権が及ばないとする本号の趣旨は、「放送事業者の権利を通じて実演家の権利を実質的にカバーしてもらうことを予定して、法律上は、有線による同時再送信には実演家の権利が及ばないこととしたものである」(加戸守行「著作権法逐条講義」)とされている。しかしながら、実演家が権利を確保するのに、放送事業者の権利を通じなければならないとされることは、実態にそぐわない。現状においては、(社)日本音楽著作権協会、(協)日本シナリオ作家協会、(社)日本文芸著作権保護同盟、(協)日本放送作家組合ならびに幣法人が、有線放送事業者に対し、日本放送作家組合を窓口団体として包括許諾を与えているのである。 このように、実演家が放送の有線による同時再送信について、実質的に権利を有しているという前提に立って、この包括許諾を行っているのであり、これは、すでに慣行として定着している。また、現状においては、番組多様化を目的とした区域外再送信が増加しているのであるから、実演家に対し、有線による同時再送信に関する権利を直接付与するとするのが相当であると考える。 また、改正案第38条第2項において、営利を目的としない区域内再送信について権利制限の規定をもうけたのであるから、実演家に上記のような権利を付与しても、有線放送事業者には何らの不都合は生じない筈である

ワン・チャンス主義(新版著作権事典409頁)

ワン・チャンス主義とは、このようなローマ条約上の実演家の権利を説明するために、日本の立法関係者が便宜上使用した言葉であり、国際的に通用するものではない。(棚野注:法律用語ではなく立法政策上の便宜上の用語)

有線放送と集中的包括的権利処理

  • 「著作権法改正といった不毛に近い議論をするよりも、CATV業界の現状認識に即した著作権の実務的処理による解決にこそ意が注がれるべきであり、その意味において、先般、著作権団体連絡協議会と有線テレビ連盟設立準備委員会との間で進められていた話合いが一応の妥協線に達したとのニュースはきわめて喜ばしいと思う次第である。」「CATV業界における著作権処理のルール作りとして高く評価できるものであり、とくに多種多様の権利の錯綜した分野における集中的包括的権利処理の典型としてその前途に期待するところ大である。」(放送ジャーナル社発行CATVジャーナル1973.11『文化庁著作権課長加戸守行:新しい映像情報伝達手段に関する著作権問題についての私見』)
  • 「日本芸能実演家団体協議会は、CATV事業者が補償金を支払うことを条件として、会員の実演によって制作された放送番組を、ケーブルにより変更を加えず同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定する。」(放送ジャーナル社発行CATVジャーナル1973.11『放送作家協同組合常務理事寺島アキ子:CATVと著作権―著作者団体とCATVに対する動きと私見』)
  • 著作権審議会第7小委員会(データベ−ス及びニューメディア関係)報告書(昭和60年9月)(著作権法百年史資料編659頁) 「著作権処理等の問題点」『同時再送信』:「権利者団体の窓口を一本にしぼった包括許諾により、個々のCATV事業者が権利処理を行うというルールが定着しており、現在の権利処理の方法は現実的である。」(百年史資料編691頁)(注:第7小委員会には日本有線テレビジョン放送連盟常任理事が委員として参加)
  • ニューメディア(CATV関係)における著作権等の処理の在り方に関する調査研究協力者会議中間まとめ(昭和60年9月)(百年史資料編739頁) 「同時再送信」『現状』:「<社>日本音楽著作権協会、<協>日本シナリオ作家協会、<社>日本文芸著作権保護同盟、<協>日本放送作家協会、<社>日本芸能実演家団体協議会の5団体が<協>日本放送作家組合を窓口団体として包括許諾でCATV事業者に許諾を与えており、使用料は次の方式により一括徴収している。1.区域内再送信 CATVの年間利用料収入×0.015%×波数 2.区域外再送信 CATVの年間利用料収入×0.09%×波数 (注)ただし、1+2の合計が年間利用料収入の0.35%を上限とする。」 『権利処理』:「1.権利者団体の窓口をしぼった包括許諾により、個々のCATV事業者が権利処理を行うという現在の権利処理の方法は現実的であり、このルールを変更する必要は認められない。2.映画製作者の団体を権利者団体に加える等権利処理団体の範囲の拡充を検討する必要がある。(百年史資料編739頁)(注:調査研究協力者会議には日本有線テレビジョン連盟常任理事が委員として参加)
  • 著作権審議会マルチメディア小委員会第一次報告書―マルチメディア・ソフトの素材として利用される著作物に係る権利処理を中心としてー(平成5年11月)(百年史資料編758頁) 「有線テレビジョン放送(同時再送信)」:「<社>日本音楽著作権協会、<社>日本文芸著作権保護同盟、<協>日本脚本家連盟、<協>日本シナリオ作家協会、<社>日本芸能実演家団体協議会の5団体の連名で、CATV会社と契約を結んでいる。使用料は、CATV局の年間利用料収入総額の一定割合を一括して代表団体(<協>日本脚本家連盟)に支払い、代表団体が他の団体に分配する。」
  • 実演家の著作隣接権の処理に関する業務規定第1条第4項(8)(昭和47年4月1日適用) 法第92条第1項に規定する権利を害することなく放送される実演の有線放送に関し、有線事業者に対し利用方法および条件を取り決めることならびに当該利用方法および条件に基づく補償金の請求および受領

CATV著作権暫定協約までの道程―事業者・著作権者交渉経緯のすべて(放送ジャーナル社CATVジャーナル1973.11)

  • 有線TV連合会と著団連との第1回会合が47年2月23日に開かれ、その後48年8月22日まで、5回にわたる会合と11回に及ぶ文書(注:文書別紙)のやりとりを経て、とにもかくにも暫定的な協約締結に至った。
  • 47.8.3付けで、著団連側が、放送番組の同時再送信をする場合の著作権使用料率(実演家が放送事業者を通じて請求すべきその補償金を含む)を提案。
  • 48.6.5(?)合意(附「社団法人日本有線テレビ放送連盟が設立された場合、連盟加盟CATV事業者の著作権使用料徴収には何らかの便宜を考慮する。」)

「放送作家ニュース」(日本放送作家組合) 98,100,102,103,104,107,108,109,110,111,116,120, 121,122,127,128,132,135,137,139,140,147,148号

「著作権実務百科」(学陽書房)(9-38頁、谷井精之助)

  • 芸団協は法制上有線放送権はあるものの、同時再送信については権利がないので、他団体のように許諾に基づく使用料を受けるのではなく、補償金を受けることとしている。(9-42頁)
  • 民放連では、有線テレビ放送法が施行になった1973年(昭和48年)4月(法施行は4月1日)に、「有線テレビジョン放送事業者に対し、再放送の同意をする際留意すべき事項について」という文書を各民放局に出している。これはその後1974年(昭和49年)12月に修正されたが、6項目のそれぞれに詳細な説明のついたものである。以下その項目だけを掲げてみる。
    1. 放送事業者の有する隣接権について 著作権法99条1項に基づく放送事業者の権利についての対価は当分の間請求しないが、有線テレビ事業者の財政事情等状況の変化に応じ、将来請求することがある。
    2. 番組中に含まれる著作物の著作権および実演家の権利について 再送信に際して生じる番組中の著作物の著作権問題については、有線テレビ事業者の責任において処理し、放送事業者に迷惑を及ぼさないこと。

社団法人日本ケーブルテレビ放送連盟/ケーブルテレビ番組供給者協議会「ケーブルテレビと著作権2000」抜粋(69、70頁)

「実演家の権利(著作隣接権)は、一般的に保護強化される潮流にありますが、ケーブルでの同時再送信においては著作権法第92条2項にあるように、厳密には「放送される実演を有線放送する場合は有線放送権は及ばない」と規定されています。これにも拘わらず、実演家の団体である芸団協が権利処理団体に入っているのは、権利者団体との権利処理交渉の妥協の産物でもあります。(テレビ同時再送信契約書で実演家部分が「使用料」でなく、「補償金」となっているのは、芸団協が通常慣習的に使用している表現ということもありますが、以上のような背景があることも理由になっています。)」

CATV番組供給者協議会「CATVと著作権―番組制作・供給の手引き 1983.3」抜粋

「実演家は放送される実演を有線放送するときに、権利が働かない建て前になっているとさきに説明したのに、5団体の中に芸団協が入っているのは、いわゆるワンチャンスで放送事業者を通じて権利行使すべきところを、上記の料金が支払われることによって、芸団協は再送信に対し放送事業者に異議を申し立てない、とCATV局との契約で担保する構造になっているからです。」(72頁) 「権利者5団体による包括処理は、それなりにうまく機能していると評価できます。」(74頁)

法規定と契約(任意規定か強行規定か)についての参考文献=岡本薫「新しい時代における著作権の課題」(コピライト2002.3.14頁)

(権利制限規定と契約)

以上

コメントを投稿する




*

※コメントは管理者による承認後に掲載されます。

トラックバック