WIPO外交会議で「マラケシュ条約」採択、視覚・読字障害者による出版物へのアクセス促進

海外ニュース

WIPO外交会議で「マラケシュ条約」採択、視覚・読字障害者による出版物へのアクセス促進

 世界知的所有権機関(WIPO)は6月27日、モロッコのマラケシュで開催された視覚障害者等のための著作権の制限及び例外に関する外交会議で、視覚障害者や読字障害者による出版物へのアクセスを促進するための条約(マラケシュ条約)を採択した。条約締結により、視覚障害や読字障害(ディスレクシア)などのため通常の印刷物を利用できない人々が健常者と同じように出版物にアクセスする権利が保障され、点字や録音図書などに変換された出版物の普及に向けた取り組みが本格化することになる。

 世界保健機関(WHO)によると、世界全体で3億1,400万人を超える視覚障害者がおり、そのうち90%が発展途上国に集中している。また、欧米では学習障害の一種であるディスレクシアの発症率が人口のおよそ10%に上るとされる。一方、世界盲人連合(WBU)によると、世界各地で毎年出版される書籍のうち、視覚障害者が利用できるフォーマットに変換される作品は全体の5%未満にとどまっている。

 マラケシュ条約はこうした現状を改善し、視覚障害や読字障害を持つ人々がより多くの出版物にアクセスできるようにするため、著作権の制限と例外について規定したもの。締約国は同条約に基づき、一定の条件で◆権利者の許諾を得ずに著作物を「アクセス可能な形式」で複製・販売することを認める◆DAISY(アクセス可能なフォーマットによる電子図書の国際標準規格)形式などによる複製物の国境を越えた提供を認める ― などを盛り込んだ国内法の整備が義務づけられる。

 2週間にわたった外交会議最終日の28日には、129カ国が条約の最終文書に署名し、51カ国が条約本体に署名した。条約は20カ国が批准した時点で発効する。
WIPOのガリ事務局長は、条約は著作権制度の構造を尊重しつつ、視覚障害者や活字利用が難しい人々が出版物にアクセスしやすくするための「シンプルで実行可能、かつ効果的な枠組み」を提供すると指摘。条約の早期批准を通じてアクセス可能なフォーマットによる著作物の普及を促進したい考えを強調した。

(June 27, 2013, UN News Centre 他)

(庵研究員著)

コメントを投稿する




*

※コメントは管理者による承認後に掲載されます。

トラックバック