欧州委が「孤児著作物の許諾利用に関する指令案」発表、共通ルール導入でデジタル化促進

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欧州委が「孤児著作物の許諾利用に関する指令案」発表、共通ルール導入でデジタル化促進

 欧州委員会は5月24日、著作権の保護期間が存続しているものの、著作権者を特定できない「孤児著作物」を電子化し、ネット上で閲覧できるようにするためのルールを定めた「特定の孤児著作物の許諾利用に関する指令案」を発表した。
孤児著作物と認定するための要件や手続きを細かく規定し、各国の図書館、博物館、公文書館などに保管されている孤児著作物の電子化を進めて域内のどこからでもアクセスできる仕組みを確立するのが狙い。欧州議会とEU閣僚理事会の承認を経て、2012年の新ルールを導入を目指す。

 EUは自ら運営する電子図書館「ユーロピアーナ(Europeana)」を中心に、欧州の文化資産のデジタル化を推進する構想を打ち出している。しかし、EU各国の図書館などに所蔵されている作品の多くが孤児著作物であるため、著作権者の許可を得られず電子化の作業に入れないのが実情。たとえば英国の大英博物館の場合、著作権保護期間内の収蔵作品のうち孤児著作物が約40%を占めるとみられている。

 欧州委はこうした現状を踏まえ、デジタル時代に対応した知的財産制度を確立するうえで、孤児著作物の扱いに関する法的枠組みの整備が不可欠と指摘。
同じく24日に発表した知財分野におけるEUの総合戦略をまとめた政策文書「知的財産権のための単一市場」でも、孤児著作物に関する共通ルールの導入を優先課題の1つに挙げている。

 指令案はまず、著作権者を特定できない孤児著作物に関しては、権利者の許可を得ずに作品を電子化し、ネット上で利用できる仕組みを導入すべきだと指摘。ただし、孤児著作物の電子化には各国政府の許可が必要で、政府は公共の図書館、博物館・美術館、公文書館、教育機関、公共放送局などに限り、電子化を許可することができると規定している。

 孤児著作物を電子化するまでの手続きとして、まず作品を所蔵する図書館や博物館などに著作権者を探すための「ディリジェント・サーチ(入念な探索)」の実施を義務付ける。EUや加盟国の各種データベースなどを利用したディリジェント・サーチの結果、最終的に著作権者が特定できなかった場合、当該作品は「孤児著作物」と認定され、他のEU諸国に通知される。1カ国で孤児著作物と認定された作品はEU全域で自動的に孤児著作物として認定されるため、同じ作品について複数の国でディリジェント・サーチを実施する必要はない。

 また、複数の国で同じ作品を電子化するといった無駄を省くため、EUは域内で電子化された孤児著作物に関する情報を一元管理するデータベースを新たに構築・運用する。一方、孤児著作物と認定された作品を電子化した後に著作権者が判明したケースについて、欧州委はただちに孤児著作物としての認定を取り消し、権利者に補償を支払う必要があると指摘している。

 欧州委はそのうえで、孤児著作物の問題は文化資産のデジタル化構想を妨げているさまざまな障害の1つにすぎないと強調。今後は絶版書籍など、市場を流通していない著作物の電子化を進めるための許諾の仕組みについても検討を急ぐ方針を示している。

(Out-Law News, May 27, 2011 他)

(庵研究員著)

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