ウィキペディアが「忘れられる権利」容認判決受け対抗策、削除通知を公表へ

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 オンライン百科事典「ウィキペディア」を運営するウィキメディア財団は6日、インターネットの検索結果に表示された個人情報の削除を求める「忘れられる権利」を認めたEU司法裁判所の判決に異議を唱え、検索結果からリンクが削除されたウィキペディアの記事をリスト化する方針を打ち出した。同財団は十分な説明や異議申し立ての手段もないまま検索結果が削除されることになれば、インターネットは「記憶の穴だらけになる」と警告。透明性を確保するため、リンク削除に関する検索エンジンからの通知をすべて公表すると説明している。

 EUではネット上における個人情報保護の強化を目的として、オンラインサービスの利用者が事業者に対し、自分に関するデータの削除を要求できる「忘れられる権利」を認める規則の導入が検討されている。これに関連してEU司法裁は5月、米検索大手グーグルに対し、検索結果として表示された自身に関する過去の報道の削除を求めた原告の訴えを認める判決を下した。法制化を先取りして利用者の忘れられる権利を容認したかたちで、市民の知る権利や表現の自由とプライバシー保護のバランスについて判断を示した事案として注目を集めている。

 ウィキメディア財団のライラ・トレティコフ事務局長によると、同財団はこれまでに検索エンジンから5件の削除通知を受け取っており、英国、イタリア、オランダ版ウィキペディアの合わせて50件以上のリンクが削除対象になった。同氏はブログへの投稿で、司法裁の判決は「個人や出来事に関する正確で検証可能な記録へのアクセス」を妨げるもので、ウィキペディアは深刻な影響を受けていると説明。「欧州では一般市民への説明や証拠の提示、さらに司法審査や異議申し立ての手段もないまま、正確な検索結果が失われている。その結果、記憶の穴だらけとなったインターネット ── 不都合な情報が簡単に消される場所が生まれようとしている」と指摘している。

 一方、グーグルは司法裁の判決を受け、欧州の利用者を対象に検索結果に含まれる個人情報へのリンクの削除要請を受け付け、7月上旬から複数のニュース記事を検索結果に表示しない措置を開始した。しかし、グーグルから不表示の通知を受けた報道機関などから「言論の自由や市民の知る権利の侵害につながる」といった批判が相次ぎ、削除対象になった記事のうち一部のリンクを再び表示させるなど、試行錯誤が続いている。

(Reuters, August 6, 2014 他)

(庵研究員)

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