英政府が知財法改正に向けた諮問委の答申を支持、デジタル著作権取引所やフォーマット変換など実現へ

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英政府が知財法改正に向けた諮問委の答申を支持、デジタル著作権取引所やフォーマット変換など実現へ

 英知的財産庁(IPO)は3日、政府の諮問を受けてカーディフ大学のイアン・ハーグリーブス教授が答申した「知的財産と成長戦略の見直し」と題する報告書(ハーグリーブス・レビュー)に対する政府見解をまとめた。IPOは知的財産権制度を刷新して経済成長を促す必要性を改めて強調し、デジタル著作権取引所の創設など10項目の施策を盛り込んだハーグリーブス教授の勧告を支持する方針を示している。

 ハーグリーブス教授が今年5月にまとめた報告書は「時代遅れ」の知財関連法が「英国の技術革新と経済成長を妨げている」と指摘。政府が3月に打ち出した成長戦略を実現するうえで知財権制度の改革が鍵を握るとし、とりわけ権利者保護に過度な比重が置かれた著作権法による規制を緩和して、デジタル時代に対応したルールを整備する必要があると結論づけている。

 ハーグリーブス・レビューの主な提言に対する政府の基本方針および行動計画は以下の通り:

1.著作権ライセンス
(1)デジタル著作権取引所の創設
著作権者が共通システムに基づいて著作物の利用を許諾できるオンライン取引制度を導入することで著作物の合法的な流通を活性化し、クリエイティブ産業の成長を促すことができる。報告書はこうした著作権取引システムの導入により、2020年までに年間22億ポンドの経済効果が生まれると予測している。政府はデジタル著作権取引所の創設に向け、システムの基本設計、運営方法、市場参加者に対するインセンティブなどに重点を置いて実行可能性を検証し、今年末までに進捗状況を報告する。また、国に著作権が帰属する著作物について、デジタル著作権取引所の開設と同時に同システムに基づくライセンス取引が可能となるよう準備を進めると共に、国内の公的機関に対して同様の取り組みを求める。

(2)国境を超えた著作権ライセンス
欧州委員会は国ごとに異なる著作権管理システムが国境を越えた音楽や映像の配信サービスなどの妨げになっているとの認識に基づき、EUレベルで著作権を一元管理する域内共通の法的枠組みの構築に取り組んでおり、今年後半に法案をまとめる方針を打ち出している。英国政府は欧州委の取り組みを支持し、同委と協力して現在さまざまな分野で運用されている効率的な著作権管理モデルに適合したルールづくりを進める。


2.孤児著作物
著作権者が不明なため許諾が得られないまま放置されているおびただしい数の「孤児著作物」を円滑に利用できる仕組みを構築する必要がある。政府は今秋をめどに孤児著作物と認定するための要件や手続きなどを盛り込んだ孤児作品の商業利用および文化・学術的利用に関するスキームをまとめる。これにはデジタル著作権取引所のデータベースなどあらゆるソースを活用したディリジェント・サーチ(入念な探索)の実施義務化、市場の相場を反映した著作権使用料の設定、著作物と認定された後に著作権者が判明した場合の対応などが含まれる。また、政府は大量の孤児著作物のライセンスを効率的に処理する「拡大集中許諾制度」の導入に向け、今秋に具体的な提案を行う。


3.著作権に対する制限
政府はEUの枠組みに基づいて最も広い範囲で著作権の例外規定を設けるべきだとする報告書の勧告を支持する。

(1)フォーマット変換
コンテンツ産業の成長を促すため、私的使用を目的とする著作物の複製を認める著作権の例外規定を設ける。すでに多くの消費者が合法的に購入したCDの音楽をパソコンやiPodなどの携帯端末にコピーするといった私的複製を行っており、こうした実態に合わせて著作権法を改正する必要がある。

(2)パロディー
パロディーにも著作権の例外規定を適用し、著作権者の許諾を得ずに作品を使用できる仕組みを導入する。これによって制作会社、コメディアンなどの実演家、放送事業者などは経済的な恩恵を受けることになる。

(3)非商業的利用
非営利の調査・研究、テキストおよびデータ分析、図書保管など、EUの枠組みにおいて実現可能なすべてのケースについて著作権の例外規定を設ける。例えば医学分野のデータベースの場合、英国では現行の著作権ルールによって87%がアクセス不可能な状態にあるが、著作権の例外規定を導入することでこうした障害が取り除かれ、研究が飛躍的に進展すると期待される。政府は今秋に著作権に対する制限の拡大について具体的な提案を行う。
このほか特許の藪とその他のイノベーションに対する障害、デザイン産業、知的財産権の権利行使など、ハーグリーブス・レビューに盛り込まれた各項目に対して政府として勧告の内容を支持し、実現に向けて具体的なルールづくりを進める方針を示している。

(IPO Press Release, August 3, 2011 他)

(庵研究員著)


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