欧州委がデジタル時代に対応した知財権の総合戦略を発表、著作権管理の一元化など柱

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欧州委がデジタル時代に対応した知財権の総合戦略を発表、著作権管理の一元化など柱

 欧州委員会は5月24日、知的財産権に関する総合戦略をまとめた政策文書を発表した。音楽や映像のインターネット配信が急速に普及している現状を踏まえ、国境を越えて著作権を一元管理する域内共通の法的枠組みの整備や、著作権者を特定できない「孤児作品」のデジタル化に関する共通ルールの導入などを柱とする内容。デジタル時代に対応した知財権保護の枠組みを構築し、新たなビジネス機会の創出につなげるのが狙いだ。このほか特定の地域で生産される明確な特徴を持つ農産品や食品を対象とする「地理的表示」の保護ルールを拡充し、新たに非農産品に適用することなども打ち出した。

 EUでは現在、国ごとに著作権管理システムが異なるため、複数の国で音楽や映像の配信サービスを提供する場合、事業者はそれぞれの国で利用許諾を受けなければならない。欧州委はこうした煩雑な手続きがビジネスの妨げになっていると指摘し、著作物の利用許諾や著作権使用料の分配に関する共通ルールを導入する必要性を強調。今年後半にも法案をまとめる方針を示している。

 また、欧州委は著作権の保護期間が存続しているものの、著作権者を特定できない「孤児作品」を電子化して「デジタル図書館」に収蔵し、ネット上で閲覧できるようにするための共通ルールを打ち出した。孤児作品であることが判明した著作物については各国政府の権限で自国の図書館や博物館などにデジタル化を許可することができるとし、孤児作品と認定するための基準、権利者を特定するための「ディリジェント・サーチ(入念な探索)」と呼ばれる手続き、孤児作品の利用条件などを定めている。

 一方、インターネットの普及に伴い深刻化している海賊版や違法ダウンロードなどの問題に対応するため、2009年に創設した欧州模倣品・海賊版監視部門(EOCP)の権限をより高い専門性と豊富なリソースを持つ欧州共同体商標意匠庁(OHIM)に移管することを提案している。デジタル環境に適合した知的財産権の行使を可能にするため、2012年春に2004年の「知的財産権の行使に関する指令」の見直しを行う。

 製品の品質と地理的起源との関連性を保障する地理的表示に関しては、非農産品を保護するためのルールが国よって異なり、半数以上の国で知財権として保護する仕組みが整っていないのが現状。欧州委はイタリア北部で産出される「カラーラの大理石」やドイツ西部の「ゾーリンゲンのナイフ」など、非農産品に地理的表示を導入し、農産品や食品と同様に知財権を保護するための法的枠組みを整える必要があると指摘。実現可能性や市場への影響を分析すると同時に各方面から広く意見を聞き、それらの結果を踏まえて12年後半に具体的な方向性を打ち出す方針を示している。

(European Commission Press Release, May 24, 2011 他)

(庵研究員著)

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