「EU特許」出願は英仏独のうち1言語で、欧州委が翻訳ルールを提案

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「EU特許」出願は英仏独のうち1言語で、欧州委が翻訳ルールを提案

 欧州委員会は1日、すべてのEU加盟国で有効な「EU特許」の使用言語に関する取り決めを提案した。EU共通の単一特許制度の創設にあたり、英語、仏語、独語のうち1つの言語だけで出願できる仕組みを導入する。3言語体制への移行にはスペインなどが反発する可能性もあるが、欧州委は翻訳費用を最小限に抑えて企業負担を軽減することが研究・開発(R&D)投資や技術革新の推進につながると強調し、年内の合意を目指して加盟国の意見調整を図る意向を示している。

 EU加盟国は昨年12月に域内の特許制度を一元化することで合意し、すべての加盟国で同じ効力を持つEU特許を創設すると共に、特許関連の紛争処理にあたる「EU特許裁判所」を設置することを決めた。欧州委が2000年に「共同体特許に関する規則(案)」を打ち出してから約10年を経て、単一特許制度の構想はようやく実現に向けて大きく前進したが、昨年末のEU産業相理事会では共通特許の使用言語をめぐって最後まで調整がつかなかった。母国語が選択肢から除外されることにスペインとイタリアが難色を示したためで、加盟国は使用言語について別途ルールを設けることで合意し、これを受けて欧州委が具体策を
検討していた。

 現在EUで特許を取得する仕組みとしては、各国で出願して個別に審査を受ける方法と、欧州特許庁(EPO)に出願して「欧州特許」を取得する方法がある。ただ、欧州特許についても最終的な認可権限は各国の特許庁が握っており、特許を取得したい国の制度に合わせてそれぞれ書類を用意しなければならない。これに対し、欧州委案ではEPOがEU特許の認可権を持ち、企業は英仏独のいずれかの言語で書類を作成すれば済む。認可された場合はクレーム(特許請求の範囲)部分を選択しなかった2言語(たとえば英語で出願した場合は仏語と独語)に翻訳する必要があるが、特許を取得したい国ごとに必要書類を揃える必要はなくなり、最小限の翻訳費用と簡素化された手続きで27カ国すべてで有効なEU特許が付与される。

 欧州委によると、EU域内の13カ国で特許を取得するために必要な費用は現時点で合計2万ユーロに上る。これは米国(平均1,850ユーロ)の10倍以上で、このうち翻訳費用が約7割を占めている。共通特許制度が導入されて1言語による出願・審査が可能になれば、EU特許の登録費用は6,200ユーロ以下(うち翻訳費用は10%程度)に抑えられると試算している。

 欧州委のバルニエ委員(域内市場・サービス担当)は声明で「EUが国際競争力を高めるにはイノベーションを推進しなければならないが、実際には特許取得に必要な多額の翻訳費用と複雑な手続きが企業にとって重い負担となり、R&D投資や技術革新の妨げになっている。EU特許の実現に必要な要素のうち最後の懸案となっていた翻訳に関する提案は、とりわけ中小企業にとって朗報だ」とコメントした。

(European Commission Press Release, July 1, 2010 他)

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