後発薬めぐる南北対立が先鋭化、インドとブラジルがオランダとEUをWTOに提訴

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後発薬めぐる南北対立が先鋭化、インドとブラジルがオランダとEUをWTOに提訴

 インドとブラジルは12日、輸出用のインド製後発医薬品を輸送経由地のオランダが特許権侵害の疑いで差し止めたのは、世界貿易機関(WTO)の協定に違反するとして、オランダとEUをWTOに提訴したと発表した。当事者間で話し合いによる解決を模索するが、60日以内に紛争が解決されない場合は紛争処理小委員会(パネル)が設置され、後発医薬品をめぐる発展途上国と先進国の対立が本格的な通商紛争に発展する可能性がある。

 後発医薬品をめぐっては、途上国が医療水準の向上につながるとして自由な流通を求める一方、欧米の製薬会社は途上国の後発薬メーカーが特許期間の残っている医薬品を製造しているケースがあると主張し、EUや米国などに対策を要求している。インドは自国メーカーが製造した輸出用の後発医薬品が欧米の経由地でくり返し差し止められる事態に対し、こうした先進国の対応が合法的な後発医薬品の流通を妨げ、貧困層が安価な医薬品を入手する手段を奪っていると反発を強めている。

 インドとブラジルのWTO大使などによると、オランダ税関は2008年12月、ブラジルに輸出されるはずだったインドのドクター・レディーズ・ラボラトリーが製造した独製薬大手メルクの血圧降下剤「Cozzar」の後発薬を押収した。インド側によると、オランダではCozzarの特許期間が残っているが、インドとブラジルでは特許保護を受けていない。このほかドイツやフランスでも08年−09年にかけてエイズ治療薬や認知症治療薬などインド製の後発薬が押収されており、EU内での押収件数は少なくとも20件に上るという。

 インドのバティアWTO大使は会見で「完全に合法な医薬品が特許侵害の疑いで押収されており、こうした経由地での差し止めは輸送保証に関する国際ルールに反する」と述べた。これに対しEU側は、域内での国境措置は模造品の流入阻止を目的としたもので、途上国による医薬品の調達を妨害する意図はないと強調している。欧州委員会のクランシー報道官は「インド政府とは数カ月にわたって協議を続けており、EUとして医薬品の輸送に関するルールを見直す意思を伝えてある」と説明。当事者間での話し合いを通じて紛争の解決を図りたい考えを示した。

 EU・インド間では自由貿易協定(FTA)の締結に向けた交渉が最終段階にさしかかっている。このためアナリストの間では、インド側が交渉を有利に進めるための「切り札」としてWTOへの提訴に踏み切ったとの見方も出ている。

(Managing Intellectual Property, May 17, 2010 他)

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