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金沢淳弁護士によるPRE主催セミナー 「知らないとソンをする!?実演家の権利 キホンのキ」

2011.4.13
IT企業法務研究所代表研究員/著作隣接権研究所所長(CPRA)
 棚野正士

 4月5・8日、新宿三丁目貸会議室ルーム201で、PRE(一般社団法人映像実演権利者合同機構。浅原恒男代表理事)主催セミナー「知らないとソンをする!?実演家の権利 キホンのキ」が満員の受講生を得て開催された。講師はPRE顧問金沢淳弁護士(Field-R法律事務所)。
 金沢弁護士は”実演家の権利 キホンのキ“を3章(1 実演家の権利 2 PREが扱う二次使用料と実演家の権利の結びつき 3 実演家の権利とワンチャンス主義)に分けて明解でわかり易い名講義を行った。
 「第3章 実演家の権利とワンチャンス主義」では、“ワンチャンス主義とは?”“劇場用映画とワンチャンス主義”“放送番組とワンチャンス主義(局制作番組/外部制作番組)”“実演家の権利のチャンスを生かすために”に分けて詳述した。実演家の権利を生かすためには、ワンチャンス主義によって権利が大きく制限されるおそれもあるので、著作権法上のワンチヤンス主義の適用範囲の解釈論や立法論が重要であること、また、権利意識をもって契約実務に当たることが重要であると強調した。
 わたくしは元芸団協事務局職員として実演家の著作隣接権業務に関わった関係から、「ワンチャンス主義」に関心をもっているが、金沢弁護士が講義の中で指摘した通り、「ワンチャンス主義」は立法当時の行政府担当者がローマ条約第19条(映画に固定された実演)(「この条約のいかなる規定にもかかわらず、実演家がその実演を影像の固定物又は影像及び音の固定物に収録することを承諾したときは、その時以降第7条(注:実演家の権利)の規定は適用しない。」)の性格を簡単に言うために考え出した部内用語だと考えている。
 「ワンチャンス主義」に長年疑問を持っていたため、かつて「新版著作権事典」(1999年出版ニュース社発行。文化庁著作権法令研究会監修)の編集委員をした時、「ワンチャンス主義」を入れることを提案し、同時に記事を執筆した(文化庁担当官補筆)。立法当時の関係者を取材して分かったことは、やはり部内の便宜的な用語ではないかということであり、国際的に通用する言葉でも法律用語でもないと確信した
 金沢弁護士のワンチャンス主義の講義を受けたことを機に、下記二つの文書を再録しておきたい。

新版著作権事典(1999年出版ニュース社発行)
「ワン・チャンス主義」

 ワン・チャンス主義とは、実演家の権利の基本的性格を説明する際に用いられる用語である。ローマ条約においては、いったん許諾を与えて実演を録音・録画すれば、その同じ目的のために録音・録画物を複製することについては実演家の権利が働かない主義をとっている(ローマ条約7,19)。このため、実演家は実演の一つ一つの利用のたびに権利が認められているわけではなく、当初の利用に際しての契約によって実演家は以後の実演の利用についても利益確保を図る途が残されているだけである。ワン・チャンス主義とは、このようなローマ条約上の実演家の権利の性格を説明するために、日本の立法関係者が便宜上使用した言葉であり、国際的に通用するものではない。(以下、省略)

「JAMEマネージャー養成講座2006」(注:JAME=日本音楽事業者協会)から「実演家の権利雑感(1):法解釈の怪しさとその背景――1.ワンチャンス主義というユウレイ」(棚野正士)

実演家の権利に関して、「ワンチャンス主義」ということが言われます。いったん許諾を与えて実演を録音・録画すれば以後権利を失い、以後の利益を確保するためには当初の契約で利益を確保しておかなければならないという意味で使われます。この言葉は実演家の権利を否定する場合に良く持ち出されます。“
実演家はワンチャンス主義だから、最初の契約で決めておかなければ権利はないよ!“というように。
 しかし、これは間違いではないかと思います。わたくしは著作権事典で「ワンチャンス主義」を担当したとき、多くの人に取材しました。結果から言いますと、この言葉は、ローマ条約の実演家の権利の性格を説明するために、政府の著作権担当者が言い出した便宜的な部内用語ではないかという事です。法律用語でもないし国際的に通用する言葉でもありません。ローマ条約上の実演家の権利は確かにワンチャンス主義です。しかし、日本の著作権法はローマ条約より厚い保護を実演家に与えています。
 例えば、劇場用映画を考えて見ましょう。よく「実演家の権利はワンチャンス主義だから、映画に録音録画されると以後権利はない。」と言われます。ほんとうにそうでしょうか。
 著作権法の中に大変重要な規定があります。第63条(著作物の利用の許諾)です。これ以外忘れてもよい位大切な規定だとわたくしは思っています。
 「著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。その許諾を得た者は、その許諾の利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。」と書いてあります。
 第63条は実演家に準用されています。準用して読み替えますと、
「実演家は、他人に対し、その実演の利用を許諾することができる。その許諾を得た者は、その許諾の利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る実演を利用することができる。」
 この条文を当てはめますと、実演家が劇場用映画に出演した場合、映画が映画として利用されることについては、実演家は当然了解しなければならないと考えます。例えば、劇場で上映する、放送で放送する、あるいはDVDにする等の場合は、映画を映画として利用することに当たります。
 しかし、劇場用映画を部分的に利用した場合、例えば放送で一部使うとか、CMで利用するとか、又カラオケの映像に部分的に使うとかの場合は、劇場用映画の「目的外利用」ではないかと思います。映画を映画として利用することには当たりません。映画の目的外利用については実演家の許諾権が働くと考えます。従って、放送利用の場合には、放送局が実演家に使用料を支払うということになります。払うのは実演を利用した方ですから、映画製作者ではなく放送事業者です。
 それから製作会社が製作したテレビ用映画の場合、テレビ用に製作したのですから、第63条から言いますと、例えばDVDにする等の時は、又別であると思います。
 こういう問題が起きないよう、製作会社からも実演家からも、最初に契約をすることが大変重要であると考えます。
 「ワンチャンス主義」というユウレイをなくすのは、著作権法第63条の規定ではないかと思っております。

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