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私的録音録画補償金問題に関するしろうとの点描的考察(3) ―ハードディスク内蔵型録音機器等の政令指定―

2010.7.14
IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士

 平成18年1月発表された「文化審議会著作権分科会報告書」“第1章法制問題小委員会 第2節私的録音録画補償金の見直しについて”(39頁)は、次の結論を出している。

  1. ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定に関して,実態を踏まえて検討する。
  2. 現在対象となっていない,パソコン内蔵・外付けのハードディスクドライブ,データ用CD-R/RW等のいわゆる汎用機器・記録媒体の取扱いに関して,実態を踏まえて検討する。
  3. 現行の対象機器・記録媒体の政令による個別指定という方式に関して,法技術的観点等から見直しが可能かどうか検討する。

 その結論に至る考え方について、ハードディスク内蔵型録音機器等は、「音楽の録音・再生を最大のセールスポイントとして販売され、また購入されているのが実態である。したがって、主として『音楽の録音に用いられているもの』として指定することは不可能ではないと考えられる。」(52頁)と記述しながらも、その注釈では、「著作権法第30条第2項は、機器と媒体を分離して規定しているが、機器や媒体の指定は、国民の権利・義務に直接関連する事項であることから、条文は厳格に解釈する必要があり、現在の条文で想定されていない『内蔵型』指定をするためには、法律の規定ぶりを変更する必要がある。」(52頁脚注)と記している。

 著作権法第30条第2項は、「私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(中略)であって政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であって政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当の額の補償金を著作権者に支払わなければならない。」と規定している。
 「条文は厳格に解釈する必要」(前記注釈)があることは当然であり、法律は基本的に厳格に解釈されなければならない。しかし、その“厳格性”とは、条文の文言に添って逐語的に杓子定規に解釈する文理上の厳格性ではなく、法の精神に基づく解釈上の厳格性である。文理解釈だけに厳格性があるわけではない。
 条文を“杓子定規”に文言どおり解釈した場合、国民の「経済的関係」において差別が生じ法の下の平等に反することにならないだろうか。分離型を指定して、内蔵型を指定しないのは、同じ「音楽の録音に用いられるもの」の取り扱いに差別を生じることになり、基本的に法の精神に反すると考えられる。
 注釈は「現在の条文で想定されていない『内蔵型』指定をするためには、法律の規定ぶりを変更する必要がある。」と述べている。確かに現行第30条第2項制定時には『内蔵型』は存在していない。従って現行条文が想定してないことは当然であるが、法解釈上は制定当時に存在していたかどうか、想定していたかどうかではなく、立法の趣旨と目的に基づいてどのように解釈するかという問題ではないだろうか。
 第30条第2項は、機器、記録媒体が一体となって使用されることによって著作物等を私的録音録画できることに着目して、機器、記録媒体を政令で定めるとしたものと解される。この場合、機器、記録媒体が別々に分離して存在する場合にはそれぞれを指定しなければならないが、機器、記録媒体が一体化した内蔵型のものが存在する場合には、それは当然第30条第2項で定める範疇に含まれると解釈でき、一体型を排除する趣旨でないことは明らかである。
 従って、法律の規定ぶりを変更する必要はなく、立法趣旨に基づき内蔵型の製品そのものを政令で定めればよいのではないだろうか。
 分離型の場合、機器、記録媒体それぞれを政令で定めるとしながら、解釈上は一体型が含まれないとすれば、その法解釈は「国民の感覚」「社会の感覚」とかけ離れたものにならないだろうか。
 以上からすれば、「ハードディスク内蔵型録音機器等」に関しては、法律の規定ぶりを変更する必要はなく、法第30条2項に基づき政令で指定すべきであると考える。

<追記>両手を合わせて拝む時、別々の位置にある右手と左手を合わせて一体化して拝むと考えてもよいし、右手、左手を分離したものと認識しないで、両手を合わせ一体化した上で拝むと考えてよいし、どちらにしても同じではないか。拝むという行為の意味を考えないで、右手と左手が分離しているか、一体化しているかという手の外見的位置で判断するのは、文言の形式的解釈に拘り行為の実質的意味を見落すことにならないか。一般的国民感情からすれば、拝むという行為の意味、目的、又その行為の精神を考えるとどちらもまったく同じであり、異なるところはなんらないと言える。

以上

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