IT企業法務研究所 創作者の地位に関する研究網

ALAI(国際著作権法学会)Japan 研究大会

2009.12.8
IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士

 ALAI Japan(斉藤博会長)の研究大会が、12月5日(土)13時-18時、専修大学で開催された。プログラムは次の通りであった。

1.2009年6月14日-17日に開催されたALAIロンドン大会の報告
 【九州大学大学院法学研究院 小島 立准教授】

 小島准教授は、ロンドン大会(テーマ「著作権法300年を祝し、その将来を見通す」)の報告を、次の項目に添って詳しく行った。

  1. 著作権の歴史(主にアン女王法について)
  2. 著作権の世界(「ギルド的規制から近代著作権法へ」、「アン女王法が英米法・大陸法諸国に与えた影響:過去・現在」)
  3. デジタル図書館(「法的及び教育的環境におけるデジタル図書館」、「デジタル図書館における集中管理」)
  4. オンラインでのライセンス(主にGoogle Book Searchについて)
  5. 消尽と訴訟戦略について(主にデジタル環境での消尽について)
  6. 方式主義について

 報告者は、Googleがロンドン大会の影の主役だったのではないかと指摘し「デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、図書館,Googleや集中管理団体といった「媒介業者・媒介機関(intermediary)」、つまり創作者、権利者と利用者の結節点に位置する存在を著作権法にいかに適切に位置づけるかという現代的課題」が論議されたと捉え、「単純に近代著作権法の先駆けをなすアン女王法300年を記念するにとどまらず、当時の最大の課題の一つであった媒介業者の役割について奇しくも再評価を行う必要性を私たちに示すとともに、今後の著作権法を根本的に再検討する貴重な機会を私たち参加者に提供してくれたのではないか」と大変興味深い報告を行った。

2.基調講演「著作権法と表現の自由-2006年 ALAIバルセロナ大会での講演から」
 【慶應義塾大学法科大学院 小泉直樹教授】

 小泉教授から、バルセロナ大会の大テーマは、著作権法と表現の自由であり、その大テーマの下に、表現の自由、アクセス・利用の自由、商標などと表現の自由という三つの部会が開かれたことが紹介され、特に、この日は「表現の自由と著作権に関する部会」における議論が報告された。

3.シンポジウム「デジタル環境下における著作物等の利用と保護」
 【総合司会 東京大学大学院法学政治学研究科 大渕哲也教授】

(1)国立国会図書館所蔵資料のデジタル化・Web収集と著作権法の改正
 【国立国会図書館総務部企画課 川西晶大課長補佐】

  1. 国立国会図書館所蔵資料のデジタル化:著作権法第31条第2項の新設・文化審議会における審議・国立国会図書館と関係者との協議・平成21年度の資料デジタル化の予定
  2. 国立国会図書館によるインターネット情報の収集:著作権法第42条の3の新設、国立国会図書館法の改正・インターネット情報収集の経緯・今後の予定

(2)ヨーロッパにおける接続切断の動き
 【井奈波朋子弁護士】

  1. フランスにおける三振ルール導入の動きとその後
    HADOPI 1法案、HADOPI 2 法案
  2. その他の動き
    EU、イギリス・アイルランド
  3. 接続切断を導入した場合の問題点

(3)韓国における接続切断の動き
 【東京都市大学 張 睿暎専任講師】

  1. 韓国改正著作権法(2009年4月22日公布、7月23日施行)
    • 第133条の2(情報通信網における不法複製物等の削除命令等)
    • 第133条の3(是正勧告等)
  2. 韓国改正著作権施行令(2009年7月22日公布、7月23日施行)
    • 第72条の2(警告または削除等の命令の手続きと方法)
    • 第72条の3(アカウント停止命令の手続きと方法)
    • 第72条の4(掲示板サービス停止命令の手続きと方法)

(4)アジアにおけるEnforcementの特徴
 【コンピュータソフトウェア著作権協会 久保田 裕専務理事】

(5)Google Book 検索和解案の波紋
 【山本隆司弁護士】

  1. 米国Google Book検索訴訟(訴訟経緯、原告、被告、侵害行為、抗弁、クラス・アクション)
  2. 原和解案の内容(対象著作物の範囲、対象権利者の範囲、Googleの権利、著作権者の権利、Googleの対価支払、最恵国待遇条項、権利者の対応策、手続・日程、和解による成果)
  3. 原和解案への反応(米国、ドイツ、フランス、日本)
  4. 原和解案の問題点(ベルヌ条約を逸脱する強制許諾制度か、独禁法違反(G社の市場独占を可能にする特権的地位の付与、価格スキーム)か、原告は orphan works・絶版書籍・外国書籍を代表する利害関係にあるか、事件性のない当事者を含んでいないか、要するに、orphan works・絶版書籍・外国書籍の犠牲において、原告代表者とG社が利益を得るスキームではないか)
  5. 新和解案(2009.11.19)の変更点(手続き・日程、クラスの範囲(書籍定義の変更:米国著作権局に登録した著作物および米・英・加・豪で発行された書籍)、市販(Commercially Available)の定義の変更、独禁法違反の回避、価格スキームの変更、orphan works等の収入の処理の変更、その他)
  6. 新和解案の問題点

(6)地球規模での送信と準拠法
 【上智大学 駒田泰士准教授】

  1. 抵触法規と実質法規
  2. 権利の準拠法と不法行為の準拠法(一般国際私法上の規律、裁判例におけるベルヌ条約の解釈)
  3. 属地主義―保護国法主義は補充的なものか?(立場1:属地主義とは保護国法主義の帰結である。、立場2:保護国法主義とは属地主義を補充する抵触法原則である。、批判的考察)
  4. インターネットが提起した問題(実質法における送信権構成と伝達権構成、立場2を採用するとインターネット送信に関してうまくいかない?、立場1を採用すべきではないか?)
  5. ユビキタス侵害に対する様々な提案(Single Law Approach/ Multiple Laws Approach, 様々な提案、若干のコメント)

(7)ネットワーク社会の光と影
 【明治大学法学部 大野幸夫教授】

  1. ネット検索サービス事業の進展と背景
  2. ネット検索サービス事業の引き起こしている法的課題(知的財産権法分野、個人情報・プライバシー分野、広告媒体としての役割と消費者保護分野、独占禁止法分野、人権侵害協力への批判、犯罪と違法行為への対策、ネットの中立性問題-FCCの通信回線支配の規制提言)
  3. グレ-ゾーン設定への提言

2012ALAIプロジェクトのシンボルマーク

追:ALAI研究大会が2012年に日本において開催されることが、山本隆司ALAI Japan理事(ALAI2012組織委員会委員長)から報告され、会員の協力が要請された(詳しくはALAI JAPANホームページ参照)(写真招き猫は、2012ALAIプロジェクトのシンボルマーク)。

以上

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