IT企業法務研究所 創作者の地位に関する研究網

新刊書紹介:佐々木忠次著「起承転々 怒っている人、集まれ! -オペラ&バレエ・プロデューサーの紙つぶて156-

(新書館 09.2発行。A5版365ページ。本体価格2,400円)

IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士(09.4.10)

「起承転々 怒っている人、集まれ!」の写真

 IT企業法務研究所(LAIT)は2008年1月22日、オペラ・バレエの世界的プロデューサーである佐々木忠次氏を講師に招き、セミナー「舞台芸術国際交流の契約交渉の真実と日本の現状」を開催した。
 佐々木氏は、1933年東京生まれ、1964年に東京バレエ団設立、同バレエ団のレベルを欧米の著名バレエ団と並ぶところまで引き上げることに成功し、国内はもとより22次668回にわたる海外公演を行い、世界各国で絶賛を博している。既に30カ国141都市で公演し、ヨーロッパのほとんどの名門オペラハウスに日本のバレエとしては初めての出演を果たした。
 特筆すべきは、1980年以降、ベジャール、ノイマイヤー、キリアンといった現代を代表する振付家に作品を委嘱し、オリジナル作品をレパートリーに加えたことである。又、創立以来、海外の著名ダンサーを招聘し、彼等との共演を重ねることにより、東京バレエ団、ひいては日本バレエ界の飛躍的レベルアップに貢献した。
 その一方、英国ロイヤルバレエ団、パリオペラ座バレエ団、モーリスベジャール・バレエ団、ボリショイバレエ団など、著名なバレエ団のほとんどを日本に招聘して成功を収めている。このほか、3年に一度、世界のトップダンサーが一堂に会する<世界バレエフェスティバル>を企画、この企画は1976年に第1回が行われて以来既に11回を数えた。
 バレエ招聘事業だけでなく、ミラノスカラ座、ウィーン国立歌劇場、バイエルン国立歌劇場、英国ロイヤルオペラ、ベルリン国立歌劇場、ベルリンドイツ・オペラなど欧米の名門歌劇場を招聘し、日本公演を実現させている。
 著書に「闘うオペラ」「オペラ・チケットの値段」「だからオペラは面白い」がある。
(2008年LAITセミナー資料から)

 佐々木忠次氏は世界各国から国家的栄誉を受け、これまでにオーストリア「栄誉金賞」、イタリア「共和国有功勲章ウフィチャーレ」、イギリス「大英帝国第4位勲功賞」、ドイツ「連邦共和国功労勲章功労十字章」、フランス「芸術文化勲章シュバリエ」、ベルギー「レオポルド2世勲章オフィサー」、フランス「ディアギレフ賞」、イタリア「共和国有功勲章コマンダトーレ」、フランス「芸術文化勲章オフィシエ」、デンマーク「デンマーク・ダンネブログ騎士章」、オーストリア「科学芸術功労十字章」、フランス「国家功労章」、ドイツ「連邦共和国功労章一等功労十字章」、ロシア「共和国文化功労賞」、イタリア「アカデミア・フィラルモニカ会員賞(NO.9358)」、イタリア「フローレンス名誉市民賞」「ミラノ名誉市民賞」を得ている。(年代順)

 佐々木氏は独力で日本のバレエ、オペラの舞台芸術を今日の世界的水準まで引き上げた20世紀最高のプロデューサーで、その名は世界で高い評価を得ているが、彼は著書「起承転々 怒っている人、集まれ!」の「あとがき」でこう書いている。
 「私に言わせれば、芸術・文化とは水や空気のようなものだ。普段は意識しなくても、人類にとって必要不可欠なものなのである。オペラやバレエという芸術を通し、おいしい水、きれいな空気を提供することを責務と考え、私はこれまで50年以上に渡って舞台の制作に携わってきた。しかし、おいしい水、きれいな空気を提供するためには、いい環境を維持する必要がある。」

 この本は、財団法人日本舞台芸術振興会(NBS)が発行する「NBSニュース」の「起承転々」欄に佐々木氏が20年にわたって書き綴ってきた随筆を纏めたものである。 オペラ、バレエの観客・聴衆は劇場入り口で配布される「NBSニュース」の「起承転々」を読むことを第一の楽しみにしていた(現在は連載されていない)。それは、“舌鋒鋭く切りまくる溜飲の下がる痛快無比な随筆”だからである。芸術・文化の環境に怒りをぶつけながら、独り闘ってきた佐々木氏の本音がそこにある。国をも恐れない彼の生き様をいちばん知っているのは聴衆であり、彼の舞台を愛する聴衆、国民が佐々木氏を支え、彼等が佐々木氏の本音に耳を傾けてきた。
 舞台芸術の真実をただ一人で追い求める孤高の大プロデューサーだから言える鋭い批評精神がそこにある。一気に読んでしまう面白い本であるが、単に面白がるのではなく、一つ一つ検証し舞台芸術の環境を検証する材料にしなけばならない。全部で156編の随筆で構成されている。1編2ページで書かれており、どのページから読んでもよいが、いったん読み始めると読者は多分虜になると思われる。

以上

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