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『私的使用目的の複製の見直し』について(「法制問題小委員会報告書(案)」の検討課題から)

「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会」は、8月17日(木)、昨年1月に文化審議会著作権分科会が示した「著作権法に関する今後の検討課題」に沿って、「私的使用目的の複製の見直し」、「共有著作権に係る制度の整備」等についての検討結果を報告書(案)に取りまとめ、公表した。

 このうち、「私的使用目的の複製の見直し」問題の中心的課題は、私的な録音録画の分野に関するものであり、関連する「私的録音録画に関する制度のあり方」については、現在、著作権分科会に併設されている「私的録音録画小委員会」において検討が行われているところである。

 このことから、同報告書(案)のうち、緊急に解決が必要とされている「私的使用目的の複製の見直し」問題に絞って、若干、考えてみることにしたい。
 
まず報告書(案)では、この問題の所在について、次のように述べている。
「私的複製をめぐっては、立法措置以前に、関係者間の契約や著作権保護技術を通じて、私的複製の範囲を事実上制限することが可能になりつつあることから、まずは、このような場合における契約の有効性や権利者が被る不利益との関係について、整理することが必要となる。その上で、そのような私的複製の範囲を前提として、問題とされる私的複製について、私的複製の範囲から除外する必要があるのか、あるいは補償金を必要とすると考えるべきか等、立法措置の必要性の有無について、私的複製についての立法趣旨も踏まえながら、検討することが必要となる。」
 
 ここに触れられている内容は、難しく、分かりにくいところでもあるが、法制問題小委員会議事録(第5回)をも参考としながら整理してみると、「技術的保護手段」をキーワードとして、「それによって制限される私的複製を権利者が被る不利益との関係からどのように捉えたらよいのか」、そして「そのような私的複製に対し、立法上どのように対応(私的複製から除外、報酬請求権制度により対応)したらよいのか」ということになるのではないかと思われる。
このあたりに焦点を絞りながら、この問題の出発点である「私的使用のための複製と複製技術の開発・普及」という観点からも、今一度眺め直してみたいと思う。

1.録音機器の開発状況と社会実態、法改正の動向等
  私的使用のための複製問題は、民生用の録音録画機器(特に録音機器)の登場と深い関連があることから、まず、主として録音機器の開発状況とその普及に伴う私的録音の実態、また、そのような社会実態を受けての法改正等の動向を一通り眺めておくことも必要であるように思う。
  そこで、これらがどのように関連しあいながら推移して行ったのかを知るため、補償金制度の施行に至るまでの主な事項を年代を追って見てみると、次のとおりである。
 ○録音機器の開発状況と社会実態及び法改正の動向等
  1958 ・オープンリール式テープレコーダーの量産化
  1965 ・カセット式テープレコーダー
       ・世界で最初の報酬請求権制度導入(西ドイツ)
  1966 ・録音機器の世帯普及率18%(経済企画庁消費者動向調査)
  1967 ・ラジオ付カセットレコーダー(ラジカセ)
  1970 ・著作権法の全面改正
         ―第30条(私的使用のための複製):「許諾権」「対価請求権」の双方を制限
  1976 ・ステレオ式ラジカセ
  1976 ・録音機器の世帯普及率(東京都)66%(JASRAC/芸団協/RIAJ<権利者3団体>調査)
  1977 ・権利者3団体が文化庁長官に法改正(第30条)を要望
       ・著作権審議会に第5小委員会(録音・録画関係)を設置
  1979 ・携帯型音楽再生機(ウオークマン)
  1981 ・第5小委員会報告書取りまとめ(制度導入は時期尚早
  1982 ・「著作権問題に関する懇談会」の設置(著作権資料協会内)
  1987 ・著作権審議会に第10小委員会(私的録音・録画関係)を設置
       ・DAT(旧規格)
  1990 ・DAT(新規格)
  1991 ・録音機器の保有状況90.3%、録画機器の保有状況84.9%、私的録音の頻度
        (若年層:15才~24才)8割以上の人が録音経験、私的録画の頻度(若年層:15才~24才)
        8割近くの人が録画経験(権利者団体とメーカー団体の協力により実施した調査)
       ・第10小委員会報告書取りまとめ(制度導入の必要性を提言)
  1992 ・MD、DCC
       ・私的録音録画補償金制度の導入(著作権法の一部改正)
          ―「許諾権」は復元させず、報酬を請求する「債権的請求権」を復活
  1993 ・3月 私的録音補償金管理協会(sarah)設立
       ・4月 DAT 、DCC、 MDの3種を補償金支払対象の特定機器・記録媒体として政令指定
       ・6月 補償金制度施行

2.著作権法第30条(私的使用のための複製)制定の意図
 私的録音録画補償金制度は、権利制限規定である第30条内に置かれたシステムである。
したがって、報告書(案)においても「その立法趣旨を踏まえながら検討することが必要」とされていることから、この際、1970年に制定された30条制定の意図を再確認してみることとしたい。

当初草案(1966年)では、「私的使用のための複製等(33条)」として「私的使用」と「学校の学級内等における使用」の両方が含まれた形で書かれており、その但書には「著作権者の経済的利益を不当に害する場合には、この限りでない。」という限定がなされていたが、その後1968年草案で、「私的使用(30条)と「学校その他の教育機関における使用(35条)」に書き分けられ、35条では但書が残り、30条では取られることになったものとされている。

 このように、当初草案に示された但書は、当時、ベルヌ条約のストックホルム改正が進行しており、その条約草案の中に9条2項の規定が置かれ、「著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の経済的利益を不当に害しないことを条件とする。」とされていたことを踏まえてのものであったといわれている。

 しかし、その後、30条にこの但書が落ちたことは、当時の日本における家庭内複製の実態が、条約上の経済的利益を不当に害する場合に該当するような状態ではないという認識に立ったものと考えられている。
 このことは、前1に示した録音機器の開発・普及状況等の社会実態を見ても分かるように、その当時は、いわばオープンリールの時代ということができ、このような状況下で行われる個人の家庭内録音の程度は、いわば零細な利用といえるものであり、また、個人が行う零細な利用を社会全体として総合的に捉えて評価する場合も「著作者の経済的利益を不当に害する」ものとして捉えることは困難であったものと思われる。

さらに、このような零細な利用に対して許諾権を付与し、いちいち権利者の了承を得て使用料の支払を行うことは、実際上不可能でもあり、結果的に違法行為を事実上容認せざるを得ないような状況を生じさせるものでもあることから、これに権利を及ぼすことなく、自由利用を認めることとしたことは理解でき得るものである。

 関連して、法制問題小委員会議事録(第5回)には「著作者の正当な利益を不当に害しないといった条約上の要請を30条に明記すべきではないかとする意見もある。」と述べられているが、このように但書が落ちた形で30条が制定され、その後、複製機器の開発・普及によって、権利者に負担を強いるような状況が生じた場合であっても、著作権法第5条(条約の効力)から、ベルヌ条約の規定優先で対応し得るものであることを考慮すれば、現行法の下においても、条約を前提とした解釈を行うことは可能なのであろう。

 そして、その当時はカセット式のテープレコーダーも出始めてきており、今後の複製手段の発達、普及の状況によっては、権利者の利益を著しく害することも考えられることから、現行法制定のために設置された著作権審議会の報告書において、「この点について、将来において再検討の必要があろう。」との指摘もなされており、また、現行著作権法の成立を見るにいたった弟63回国会における衆議院文教委員会では「今日の著作物利用手段の開発状況は、いよいよ急速なものがあり、すでに早急に検討すべきいくつかの新たな課題が予想されるところである。よって、今回改正される著作権制度についても時宜を失することなく、著作権審議会における検討を経て、このような課題に対応しうる措置をさらに講ずるよう配慮すべきである。」との附帯決議がなされ、参議院文教委員会においても同旨の附帯決議が付されている。
このように30条が規定されるに当たっては、その後の複製手段の開発状況によっては、将来、再検討が求められていたものであることを考慮しておく必要がある。

  
以上のとおり、30条立法の意図は、あくまでも著作権の有する排他性の「例外」として、「一定の限られた場合」での使用を規定したものであるので、それを私的使用の目的であれば、無制限に、どのような複製も自由利用が許されると解することはできない。

このことから、30条の私的複製の範囲は、『必要最低限の複製だけが許される(中山信弘氏)。』と解釈すべきものなのであろう。

3.ベルヌ条約上の位置づけ
 また、私的使用のための複製問題を語る場合、その起点となるのがベルヌ条約9条である。
 ベルヌ条約のブラッセル規定までは、一般的な複製権は明示的に著作者に与えられていなかったが、ストックホルム規定において、複製権を条約上の権利として明らかにするとともに、その複製権の制限規定が整備された。
 
 ○ベルヌ条約ストックホルム規定(1967年)
   第9条
(1)文学的及び美術的著作物の著作者であってこの条約により保護される者は、方法及び形式のいかんを問わずそれらの著作物を複製することを許諾する排他的権利を享有する。
(2)ある特別の場合において著作物の複製を認める権能は、同盟国の法令に留保される。ただし、このような複製が著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする。
(3)録音又は録画は、この条約の適用上複製とみなされる。
 
  この9条を見る場合、その検討過程(ベルヌ条約ストックホルム改正会議報告―文部省)等から、次のような点に注視する必要があるように思われる。

  1. その1項では、著作者は「複製を許諾する排他的権利を有する。」と書かれており、このことは、複製を行うことの「例外」が認められない場合は、著作者はすべて複製についての権利を有することを意味している。したがって、複製権を考える場合は、このことからスターとさせるべきものである。
  2. 一般的な複製権と録音権は権利行使の実態を考慮して、別に規定することが望ましいのではないかといった提案もなされたようであるが、結論としては、複製権に録音権も含めることとして、9条3項の規定が設けられ、その趣旨を明らかにすることとされた。
  3. 制限規定の公式提案は、次のような場合において、複製を許諾することは同盟国の法令の定めるところによるとされていた。
  4. (a) 私的使用の場合
    (b) 司法又は行政上の目的に使用する場合
    (c) 複製が著作者の正当な利益に反せず、かつ著作物の通常の利用と衝突しないある特定の場合
     しかし、「私的使用」」・「行政目的」の語を用いることは、それらが拡張して解釈される恐れがあるとして、(a)及び(b)をも含む(c)の趣旨だけを規定することが望ましいとする提案がなされ、最終的に2項に定める内容となったものとされている。

  5. このように、2項は複製の「例外」の可能性について書かれているものであるが、そこには「例外」を認める3つの条件が示されている。
     この3つの条件の解釈については、WIPO著作権局著作権課長であったミハイリ・フィチョール博士が、次のように述べている。
    「まず第一の条件としては、『例外』は『特別の場合』についてのみ許されるとされており、いわゆる『一般的な性格のもの』が認められているわけではないということである。
     すなわち、『ある特定の場合』であると認められ、それを『例外』として取り扱った場合には、次の段階として、それを『作品の通常の利用と衝突しないかどうか』を検討するということになっており、これが第二の条件である。
    もし第二の条件に抵触するということであれば、それで『例外』として取り扱わないことになるわけであり、抵触しないということであれば、第三の条件である『著作者の正当な利益を不当に害しないかどうか』を検討するということである。」

4.ベルヌ条約第9条第2項と私的録音録画
 このように、ベルヌ条約9条の複製には録音録画も含まれることとして定められたが、日本におけるその後の録音録画機器の発達・普及の実態に照らし、はたして、それぞれの時代における私的録音録画が、この9条2項の条件に当てはまるのか、すなわち「例外」として成立するのかということであるが、その場合、まず第一の条件である「特定の場合」に該当するのかどうかが問題となる。
 (1)1970年の著作権法改正当時の私的録音録画の状況は、前2著作権法第30条制定の意図」で触れたように、オープンリールの時代に象徴されるような零細な利用と見なされるものであり、また、社会全体としての総量的な評価からも一般の複製と同様に自由利用が認められることに妥当性があったものと判断できる。   

 (2)しかし、その後の民生用の録音録画機器や記録媒体の目覚しい発達や普及に伴って、著作物等を家庭内において録音録画して楽しむことが広く行われるようになり、これが著作物等の有力な利用形態の一つとなってきている状況下における録音録画はどのように位置づけられるのであろうか。

    この点を判断するには、1977年に、JASRAC、芸団協、RIAJの権利者3団体が文化庁長官に提出した「著作権法第30条の改正についての要望書」の内容が参考になるように思われる。
  ○私的録音録画に対する権利者団体の認識(1977年当時)
    前1で眺めたとおり、著作権審議会第5小委員会(録音録画関係)の設置は、この権利者3団体から文化庁長官に提出された「要望書」が一つの契機となったものである。
    このことからも、この「要望書」の位置づけは重要なものといえる。
    
「要望書」は、私的録音録画にかかる報酬請求権制度(いわゆる西ドイツ方式)の導入を求めたものであったが、その法改正を要望する理由については、私的録音録画の客観的な実態調査(1976年:3団体調査)をもとに私的使用のための複製の問題点を浮きぼりにし、「私的録音録画行為の実態は現行著作権法制定時の予想をはるかに上回り、速やかに制度改正を行うべき重大な時期に来ていることが明らかになった。」と述べているのである。

なかでも注目すべきことは、その実態について、テープレコーダーの普及拡大(東京都における世帯普及率;66%)、個人録音人口の増大(全国推定:2300万人)等から、私的録音は『最早日常事と化している』と位置づけていることである。

そして、「日常事と化した」私的録音録画の将来的見通し(録音録画機器の新たな利用者の発生と経験者の永続化・深化)と相まって、「私的使用のための複製の自由は、もはや権利者が複製権の制限として受忍する限界を超えたと判断せざるを得ない。」としているのである。

 このように見てくると、少なくとも、1967年にワンタッチでラジオ放送を録音する機能を有するラジオ付カセットレコーダー(ラジカセ)が登場し、このような私的録音の機能を重点とした機器の著しい普及よって、家庭内における複製の可能性(30条による複製の自由)が増大し、それだけ権利者の報酬を得る機会が失われることになってきたものであり、権利者3団体によって「日常事と化した」と位置づけられた1976年当時の私的録音の実態は、もはやベルヌ条約9条2項の「例外」として認める3つの条件のうち、第一の条件である「特別の場合」に該当するとはいえないものなのであろう。
  
それは、「日常事と化した」とは「特別な場合」ではなく、「一般的な性格のもの」として捉えることができるからである。

そして、「複製権の制限として受忍する限界を超えた」としているのは、『権利者が本来有している複製に対する権利を行使し、そこから受ける利益を享受する機会を大幅に減少させている。』ということであり(この問題の初期的な論議の中には、私的複製によるレコードの売り上げ減少といった観点からの議論が見られたが、そのようなものではなく)、このことが「権利者の正当な利益が不当に害されている。」と見なされるということなのである。    

5.権利者の被る経済的不利益に関する著作権審議会第5小委員会の検討
文化庁長官に宛てた権利者3団体からの「要望書」が契機となって第5小委員会が設置されたが、この場で「私的録音録画に伴う権利者の経済的不利益の発生」、すなわち実態の評価に関しての検討が行われている。
  
その評価に当たっては、これを肯定又は否定する双方の意見が見られるが、上述の点を踏まえて考えて見れば、次のような見解には納得し得るものがある。
 「三つの調査(総理府調査、三団体及び工業会調査)によれば、録音機器の保有率は、最低66%以上となっており、録音機器は、本来音楽の著作物等を録音・再生するためのも機器であるということを考えあわせると、この事実だけからでも著作権者等の利益が侵害されているものと判断してよいのではないか。」

また、経済的不利益の立証の問題についても、いくつかの考え方が示されているが、次の見解が妥当するように思われる。
  「まず、録音・録画機器の普及により社会全体として大量の著作物や実演等が利用され、権利者がこれによって経済的に不利益を被るであろう可能性ないし蓋然性があれば十分であること、すなわち、経済的不利益をもたらす可能性のある機器が家庭内に普及している事実、例えば、全世帯における機器の普及率が50%以上になっている程度の立証で十分であり、この状況により権利者の利益が不当に侵害されているものと判断して差し支えない。」

 このように、30条制定当時は民生用の録音機器の普及の程度は低く、現実的に私的使用のための録音の例はそれ程多くはなかったが、その後、録音録画機器の開発が進み、小型化、低廉化した複製機器が家庭内に入り込むことによって、30条に示された要件の適用には捉われずに、「例外的」に定められている自由利用の範囲が肥大化し、その結果、著作権法の目的でもある権利者の報酬を保証するための機能が果たせなくなってきていると判断できるのである。

さらに今日における複製の実態は、アナログからデジタルの時代へと移行しており、このことは、第5小委員会で示された複製機器の家庭内への普及に伴って生ずる社会全体としての「複製の総量」だけでなく、高品質な複製物を入手することができるという「複製の質的な変化」をももたらしている。 

 このように眺めてくると、デジタル複製機器(政令指定機器のほか、パソコン、ハードディスク内臓型録音機器等)の普及により、ほとんどの家庭において何らかの複製機器を保有している状況を前提とする限り、私的使用目的であれば、数量的に無制限に自由利用が可能であると解することは、ベルヌ条約9条2項の趣旨に反することは明らかであろう。
 
このことから、今日的な私的録音録画を「30条内の複製」として捉えるためには、何らかの合理的な限定が加えられなければならないのである。

6.補償金制度とその前提としての技術的制限
  私的録音録画と報酬請求権制度との関係については、著作権審議会第10小委員会(1987年)において検討されているが、その検討過程で、次のような2通りの考え方が示されている。
(1)私的録音録画は家庭内等で行われるものであり、個々のユーザーが個々の権利者に許諾を求め、一定の使用料を支払って著作物等の利用を行うという、個別の権利処理の方式になじみぬくいところから、従来どおり権利者の許諾を得ることなく、録音録画は自由としつつも、一種の補償措置として報酬請求権制度を導入することとする考え方

(2)私的録音録画行為は、権利制限の範囲から除外され、個別の権利処理が必要な状態とするが、従来どおり私的録音録画は自由であるという状態を確保するため、一種の法定許諾制度(権利者の個別の許諾を得なくとも、法律上著作物等の利用ができることとし、一定の対価の支払いを義務づけるという制度)として報酬請求権制度を導入するという考え方

(2)の考え方は、一旦、私的録音録画行為を複製権に戻し、権利者の許諾が及ぶような状態にするとことであるが、このことは、複製一般のうち私的録音録画の分野における実態は、すでに30条の立法趣旨としての「必要最低限の複製(権利者の利益を害さない範囲)」という限度を超えるものであることから、論理的には妥当する考え方であると思われる。
しかし、第10小委員会においても「個別的な権利処理になじまない制度の特徴からは成り立ちにくい」という意見等から、(1)の考え方が適当であるとする意見が大勢であったとされている。 
  
なお、補足して触れれば、権利者3団体が文化庁長官に対して要望書を提出するに当たっても、当時の私的録音録画の実態から、これを30条内の問題として考えるべきか、21条(複製権)等に戻して考えていくべきかの検討が行われていたようであるが、その場合も、論理的には21条等であったとしても、実際上は「利用者が技術の進歩による恩恵を受けるのを奪うことなく、かつ、権利者にも一定の報酬を得さしめる」ことが適当であるとの判断から、その要望を「著作権法第30条(私的使用のための複製)に追加して‥‥(補償金を受け取る権利を有する)旨を規定されたい。」として、30条内の問題として捉えることにしているのである。 

このような第10小委員会の検討結果を踏まえて、1992年に補償金制度が導入されることになったが、その場合、補償金の支払いとなるデジタル製品(政令指定機器等)には、事実上、録音録画を制限するシステムが装着されている。
 すなわち、録音用製品にはSCMS方式(2世代以上にわたるデジタル録音を制限するもので、CDなどのデジタル音源からのデジタル録音は1世代までに限り可能とする国際的な技術的仕様)、録画用製品にはCGMS方式(コピー禁止、1世代コピー可又はコピーフリーのいずれかを権利者が選択することができる技術的仕様)等である。

 このようにデジタル複製を技術的に制限する理由は、デジタル技術による複製は何世代にわたってオリジナルと同等の複製物を作成することができることから、著作物等の違法な利用を技術的に防ぐという効果を期待するものであると同時に、私的録音録画が拡散することによって、著作権法の目的とするバランスが損なわれることのないように、「30条内の複製の肥大化を避ける」ことを想定したものといえるのである。
  
私的録音録画問題は、複製手段の開発、普及による利用者の利便さと、それによって被る権利者の不利益をどのように調整するのかという問題であるので、この意味から、「技術的制限措置」と「金銭的な補償措置」は同じ目的を有していると解することができる。
すなわち、私的録音録画を30条内の問題として捉えた場合は、必ずしも、そのどちらか一方だけで十分ということではなく、技術的制限によって30条内の複製の肥大化を防ぎながら、金銭的な補償措置を講ずることによって、利用者の利便さと権利者の利益のバランスを図っていくことが、著作権法の目的に沿うものであるからである。

 以上のとおり、30条内における補償金制度を前提として私的録音録画問題を考える場合は、ビジネスモデルや複製技術の進歩・発達の程度に応じて、新たな技術的保護手段を開発し、採用することが求められているといえる。

もし、このような「技術的制限が付されない」とするならば、そのような私的録音録画は、もはや30条の外(許諾・禁止権が働くことになる。)に位置づけられなければならないであろうし、また、これを実効性の観点から30条内に置くとするのであれば、それは補償金の額にも影響し、現行の補償金の額より高額な「通常の使用料並み」の額にならざるを得ないのである。
  
7.まとめ
以上の基礎的な内容を踏まえながら、以下、幾つかの事項について触れてみることにしたい。
(1)先に示した報告書(案)の「問題の所在」には、「著作権保護技術を通じて、私的複製の範囲を事実上制限することが可能になりつつある」とされているが、これは主にデジタルネットワーク技術として注目を集めているTPMを含むDRM技術、又はTPMを指しているものと思われる。
 最近、特に熱をおびてきているインターネットを使った音楽配信サービス(パソコンに音楽をダウンロードし、利用者はその音楽をiPod等の携帯音楽プレーヤーに採り込み楽しむ。)には同様の技術が用いられ、これによって複製をコントロールしている。しかし、そのビジネスモデルには、一定の回数に複製を制限しているもの
の、事実上、無制限に複製が可能なケースも見られる。

 このような音楽配信サービスによって、iPod等へ音楽を採り込むまでの利用態様ごとの位置づけに関連して、従来から議論の対象とされている、いわゆる「二重課金」(配信サービスにより音楽の提供を受けた場合に、ダウンロードに伴う使用料と、その後の私的録音に対する補償金の支払が二重課金ではないかという指摘)の問題があるが、報告書(案)で提起されているテーマを考える場合には、まず、この問題をクリアにしておかなければならない。
 なぜなら、仮に「二重課金」であるとするならば、ダウンロード後の私的録音に対する補償金問題は生じないからである。

 この課題については、すでにLAITのC-Japan広場に掲出している「ハードディスク内臓型録音機器等の追加指定について」で取り上げているので、ここではポイントの部分だけを触れてみると、音楽配信サービスにおけるダウンロード後の「私的録音」については、「私的録音を完全に遮断するのではなく、私的録音(iPod等への録音)の可能性を提供」しているものとして捉えることが適当と判断できるのである。
したがって、音楽配信サービスにおける対価は、利用者のPCへのダウン
  ロードに対する対価であり、その後の私的録音については、私的録音の可能性の提供を受けた利用者がその可能性を行使するものとして、別途に補償金の支払が必要とされるのである。
 
(2)報告書(案)の中の「私的複製と著作権保護技術」との関係において、「著作権保護技術のルールに従って、利用者が複製を行う場合も、私的複製の範囲といえるのか。」との課題に対する検討結果で「著作権保護技術は、それにより複製可能な範囲が制限されるものであるが、複製可能な範囲内の私的複製については、第30条第1項柱書に定める複製の枠内にあるものとして位置づけられると考えられる。」とされているが、この点については、もう少し正確性を期す必要があるように思われる。

 「著作権保護手段のルールに従って行われる複製可能な範囲」を「30条の枠内の複製として位置づける」には、先に眺めたように、「権利者が本来有している複製に対する権利を行使して、そこから受ける利益を享受する機会を大幅に減少させない」ために「必要最低限の複製」であると認められることが求められており、そのような条件に適合させる「技術的制限措置」が採用されていることが前提とされるのである。

 このことを踏まえて、ネットワーク技術としてのDRM、TPMを用いたビジネスモデルについて見てみると、次のように考えられるのではないかと思われる。
 まず、ビジネスモデルとしてDRMが採用されていたとしても、事実上、無制限にコピーが可能であるような場合である。
すでに眺めてきたように、このように際限のないコピーは「著作権保護手段のルールに従って行われる複製」であったとしても、30条内の複製とは評価できないものであることは明らかである(関連して、「ルールに従って」とされてはいるが、そのルールは誰がどのような手続きで作成したのかも含めて、そのルールの内容を吟味する必要がある)。

 したがって、この場合は、21条の複製権等の行使として考えるのか(権利者団体は禁止権を行使するものと考えられる。)、30条内の複製とするために別途の技術的措置を採用するのか、という選択を迫られることになる。
また、もしこれを補償金制度に乗せるという判断をするのであれば、その補償金の額にも大きく影響することを認識しておかなければならない。
補償金制度における補償金の額は、30条2項に定める「相当な額」、すなわち「通常の使用料よりは安いが利用に見合ったある程度それに近い額(加戸守行氏―著作権法逐条講義)」として、通常の使用料に比較して低廉な額が予定されているものであるが、それは個人が行う複製は零細な利用として位置づけられるものであるからなのであろう。
しかしながら、30条内の複製とは評価し得ないようなコピーを、実行上制度に乗せるのであれば、現行の補償金の額より高額な「通常の使用料並み」の額にならざるを得ないのである。
 このような選択を利用者の立場に立って考えてみれば、答えは自ずから明らかであろう。

 また、録音の回数を制限する場合であっても、その制限された回数の録音についても厳格に解釈されなければならず、その場合の技術的に制限する録音の回数をどの程度までとするのが適当なのか、あるいは補償金額で調整するのか等の検討が求められる。
(3)次に、「このような複製可能な範囲における私的複製によって、権利者の利益が害されているといえる場合があるか否か」についての検討結果においては、「実態に照らして別途検討される必要があることから、私的録音録画小委員会において、この点にも留意した検討が進められる必要がある。」とされている。
    
 この課題については、上述のように複製手段の開発の状況に見合った「適正・妥当な技術的保護手段」によって制限されているという条件のもとでの個別的な私的複製は、零細な利用として制限規定内の行為と評価してもよいのではないかと思われるが、その場合であっても、その個々の累積した利用(複製の総量)を総合的に評価すれば権利者の利益が損なわれていると判断できるのであり、このことから、権利者の利益を確保するための制度が必要になるということなのであろう。

 この点、加戸守行氏が私的録音録画の実態から「量的に累積した大量使用の実態が、質的に転換して著作者の保護にかける結果になっている。」と指摘しているとおり、結果「保護にかける」とは「権利者の利益に影響を及ぼしている」ということであるので、これを制度上救済することが必要とされるのである。

 このようなことから、今日的、かつ現実的な私的録音録画問題の解決に当たっては、DRMが、「私的複製を完全に遮断しているものではない(完全に遮断しているのであれば補償金制度には乗らない)」ことからも、DRMとダウンロード後の私的複製に対応する補償金制度とが共存する関係を模索することが大切ではないかと思われるのである。

 なお、補償金制度からDRM技術に基づくライセンスモデルへの移行についての議論もあるようであるが、DRMシステムが「権利の所在を明らかにし、使用料の支払いを保証し、行為を追跡し、権利を行使するためのもの」ともされていることを踏まえて、ダウンロード後の「私的複製」の部分についても、その使用状況を識別し、確実かつ効果的に管理する手段としてのDRMが開発され、広範に普及することになれば、補償金制度は次第にフェード・アウトされることになるのかもしれないが、現時点において、そのような完全な技術が開発されているという情報には接していない。

(4)ここで問題とされている「技術的制限」については、第10小委員会報告書において「SCMS方式のような複製についての技術的制限は、著作権等との関連はあるものの報酬請求権制度とは別に議論すべき問題」とされていたことから、現行の補償金制度の中には特段の規定は設けられてはいない。

しかし、複製手段の開発はアレグロ、又はプレストの速度で進化していることを考えるとき、技術的制限措置についての対応を著作権法上の問題として捉え、その「複製手段に見合った保護技術の装着」を義務付ける(行政指導又は法律上)ことについても検討が必要ではないかと思われる。
 さらに、実際の適応に当たって、解釈上混乱を生じさせないために、その技術のレベルについても、上述の「30条内の複製の趣旨」、「補償金制度による補償措置のレベル」等を考慮して、行政が関与する形で権利者を交えた関係者間の合意によって取り決められることが望まれる。
                              以上

コメント

2度目の臨時総会出席者 wrote:

芸団協平成18年12月14日臨時総会で提案された議案は第1号、第2号の2つでした。共に否決されました。その2つの議案を再び1月26日の臨時総会にかけました。その2度目の臨時総会の招集理由は、次の3つが記載されてありました。
・賛成の意志を持つ多くの団体が急遽欠席してしまい委        任状について団体に依っては白紙委任は会長に委任したものとの認識があり、取り扱いについての充分な説明がなかった。
・第1号議案及び第2号議案に棄権票が多く、議案に対し反対はごく少数となり否決とは言い難い。また、採決時において棄権を容認するむねの発言があったが総会の意義から適切では無く、賛否の是非を明確にするべきと考える。
・第1号議案及び第2号議案はどちらも事前説明が不十分な感があり、特に1号議案の・・・・中略・・・・。
叉2号議案は説明が今後の芸団協の事業展開と言うより新国立劇場の為の事業との誤った印象を与えた結果、これも棄権票につながったと考えられる。
以上。2度目の同じ2つの議案に対する、再度の臨時総会招集の理由です(原文のまま記載しました)。     
2007-02-01 23:10:57

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