IT企業法務研究所 創作者の地位に関する研究網

「ハードディスク内蔵型録音機器等」の追加指定について

文化庁文化審議会著作権分科会「法制問題小委員会審議の経過」に対する文化庁の意見募集(10月7日締め切り)に対して、LAITでは棚野主任研究員が意見を提出しましたが、「ハードディスク内蔵型録音機器等」の追加指定について、LAIT 国時大和 研究員が書き下ろした論文を掲載します。この論文は権利者あるいはメーカー等の立場を超えて、研究者の立場で客観的視点から論じたものであり、結論では「この政令指定問題については、現行のシステムをよく考察すれば理解できるように、『制度の根本的見直し』を行うまでもなく、すでに整備されている現行のシステムに則り、『運用』上の問題として、政令指定のための行政手続を進めることによって、解決できる問題であると思われる。」と述べています。

- 論文 -

私的録音補償金制度が平成4年12月に導入されてから13年が経過しようとしている。
制度導入当時は、いわばデジタル、アナログ混在の時代であって、補償金の支払いの対象となるデジタル方式による録音機器、記録媒体は、DAT、DCC、MD(いずれも平成5年6月から政令で指定された。)の3種の製品であった。
しかし、その後の録音技術(手段)の開発は目覚しく、音楽専用CD―R/RW(平成10年11月から政令で指定された。)に続いて、ハードディスク内蔵型・フラッシュメモリ内蔵型録音機器(以下「ハードディスク内蔵型録音機器等」という。)が登場し、PCのダウンロード機能と相俟って、急速に普及しつつある。
ところが、「ハードディスク内蔵型録音機器等」及び「PC」は現在まで政令で指定されていないことから、これらの機器等によって行われる私的録音については、補償金が支払われていないのが実情である。
このような実態を踏まえて、現在「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会」において、「ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定」、及びパソコン内蔵・外付けのハードディスクドライブ、データ用CD―R/RW等のいわゆる「汎用機器・記録媒体の取り扱い」等の問題について審議が行われている。
そこで、ここでは、iPodに代表される「ハードディスク内蔵型録音機器等」による私的録音に対し、これらの機器等の購入の時点で補償金を支払うこととすべきかどうか(当該機器等を政令で追加指定するのかどうか)という緊急の課題に的を絞って整理し、眺めてみることとしたい。

1. この問題の基本認識について
私的録音問題における基本テーマは、「音楽をより気軽に楽しませてくれる新しい録音技術(手段)をどのように位置づけ、音楽・芸能文化とのハーモナイゼーションを図るのか」ということであるように思われる。
そこで、このテーマを考える場合に大切なことは、一方で「技術の進歩による恩恵をユーザーから奪わない」ということであり、また、他方では「技術の発展によってもたらされる著作物等の新たな利用の可能性は、権利者に役立てられる」という原則を確保することである。
補償金制度の導入に当っては、以下の3で示すように、その審議に約15年もの長い年月を要していることを考えれば、それは、私的録音という限られた範囲内における行為の特質を踏まえた上で、上述の基本部分をどのように適合させ、調和を図るのかということを追い求めてきたものであったことが伺い知れる。
その結果導かれた一つの結論が、現行の補償金制度であり、このルールは、このような音楽を楽しむための技術の恩恵をユーザーから奪うことなく、また、音楽の創作者から創造の喜びを喪失させることのないように配慮されて設計されている、極めて優れたシステムであるといえる。
したがって、当面する問題を解決するに当っては、このような現行システムを良く理解した上で、一方に片寄ることなく、ユーザーの「音楽を楽しむ喜び」と創作者の「音楽を創造する喜び」が同時に確保され得るものであることが求められているといえる。
そのことが、「科学技術と芸術文化との共存」という、この制度の大命題に適うものである。

2. 社会実態の変遷と著作権法及び補償金制度について
iPodに限らず、社会生活の実態(事実)は刻々と変貌を遂げていくものである。そして、とりわけ著作権法は、著作物の利用技術(手段)の開発に伴って、つねに社会実態の変遷に直面し、その対応を求められる法律である(斎藤 博氏 概説著作権法)。
このように社会実態が先行することによって、個々の法律の中の条文が事実にぴったり適合し、対応することは珍しいことであるので、もし法律と事実との間に何らかの「ずれ」が生じていると判断される場合には、まず法の解釈によって、その「ずれ」を埋めていこうと努め、それが困難である場合に、法の改正が検討されることになるものと思われる。
そこで法を解釈するということは、このように現実の社会に出現している実態・事実を、法を適用していかに解決を図るのかという、いわゆる法の「適用作業」を指すものとされている。
そして、その場合の方法論としては、法の安定性を損なわないように、「法の目的」や「当事者の利益」を中心に据えながら、具体的な妥当性を求めていくということが、一般的にいわれているところである。
このような発想に立ってこの問題を考える場合、まず著作権法の目的、補償金制度の趣旨を眺めることが重要である。

(著作権法の目的)
幸い、日本の著作権法には第1条に「目的」を定めた規定が置かれている。そこに定められているその目的については、「著作物等が広く普及し、利用されることにも留意しながら、創作者にインセンティブを与え、多様な作品が創作されるようにすること」とされている。
このように、社会に出現する事実に対し、法を適用していく場合の明確な指針を示してくれる目的規定からは、「創作者へのインセンティブ付与と利用者の自由度」とのバランスを図ることが求められているといえる。

(補償金制度の趣旨)
また、補償金制度の制定の趣旨については、「デジタル方式の録音機器や記録媒体の目覚しい発達・普及に伴って、オリジナルと同様のコピーが社会全体として大量に作られるという状況が生じてきたため、このような私的な録音が無償で行えることは、『本来、著作者等の権利者が得られるはずの利益が損なわれることになるのではないか』との判断から、私的録音は従来どおり自由としながらも、権利者に対して補償金の支払を行うことによって、権利者の経済的な不利益を補填しようとするもの」とされている。
このように、補償金制度は、権利者の利益を保護するとともに、利用者が技術の発展の恩恵を受けつつ、著作物を享受することについての利便性にも配慮するという、いわば「権利者と利用者の利益調整のためのシステム」ということができる。

3. 私的録音行為の特殊性に基づくシステム設計について
議論の中には、「補償金制度自体は、多くの基本的問題を内包しており、制度の根本的見直しについて議論することなしに、機器等の追加により制度を肥大化させることは不適当である。」という考え方も見られるところである。
そこで、現行の補償金制度が導入されるまでの経緯を振り返ってみると、昭和52年に著作権審議会の「第5小委員会(録音・録画関係)」において公的に検討が開始(厳密には、昭和47年の「著作権審議会第3小委員会(ビデオ関係)」においても検討が行われている。)されて以来、「著作権問題に関する懇談会」、著作権審議会の「第10小委員会(私的録音・録画関係)」及び「私的録音録画問題協議会(文化庁長官の諮問機関)」において、関係者(権利者団体、機器等メーカー団体、消費者団体《著作権に関する懇談会には不参加》の代表者及び学識経験者)が約15年もの長い年月を要して議論を積み重ねてきたことからも、その時点(平成4年)で考えられる最善の方法として同制度が採用されたものであることが理解できる。
さらに、このような経緯を経て導入された補償金制度の仕組みを眺めてみると、私的録音という特質に基づく多くの問題点をクリアするために、さまざまな工夫を施して制度設計が行われていることが分かる。
すなわち、通常、新たに権利を付与するような場合は、権利を創設するための根拠となる規定(権利があるということだけ)を定めるだけで、その後は、個々の権利者が、その権利を実現していけばよいわけである。
しかし、私的録音に関しては、大量かつ日常的に行われているその行為自体を把握することが困難であり、また、そこで使用される著作物や権利者を具体的に特定することも困難である等の特殊な実情を備えているものである。
このようなことから、補償金制度は、権利創設の「原則」の規定(第30条 第2項の根拠規定)の他に、その「原則」の規定を実質的に担保し、実効あるものとしていくために必要な権利行使のシステム(第104条の2から10までの担保規定)が設けられている。
このように、もともと私的録音行為自体には、考慮しなければならない事情が数多く含まれているのであって、現行のシステムは、これらの事情を十分踏まえながら、解決が図られてきたものということができる。

4. 補償金制度における権利行使の仕組みについて
以上のとおり、この制度は私的録音という特質を踏まえたシステムであることから、制度の構成も特殊なものとなっている。
そこで、その構成を見てみると、補償金制度における権利行使の仕組みは、基本的に二つに区分することができる。
一つは、「私的録音を行う者が、私的録音を行う都度、当該録音に関わる著作物等の権利者に補償金を支払う」という「原則」(第30条 第2項)に基づく「録音行為時」における権利行使の方法である。
しかしながら、私的録音の利用行為の時点で補償金の支払いを受けることは、個々の利用行為を把握することが困難(後述のとおり、今日においてもその状況は変わっていない)であり、また、プライバシーの観点からも考慮されなければならない問題が生ずる。
このように「原則」を適用することが困難であるとすれば、それでは何を捉えていけばよいのかということであるが、機器等の購入行為は、利用行為そのものではないとしても、利用行為に密接に関連する行為、すなわち、その「購入行為のほとんどが私的録音を行うという高い蓋然性を有している」と推察されることから、「原則」の規定の実効性を確実なものにしていくために、権利行使の二つ目の方法(原則に対する特例)として、機器等の購入時に支払いを受けるシステム(第104条の4)が採用されている。
そして、この二つの権利行使の仕方のうち、どちらを採用するかについては、法律上、指定管理団体(sarah)の判断に委ねられている。
このようなことから、sarahは、制度の仕組み及び私的録音の実態、権利行使の実効性等を踏まえ、現状においては、二つ目の方法(購入時支払)を採用することが適当と判断して、今日に至っているものである。なお、権利行使の実効性に関連して、「DRMによって個別課金が可能である以上、補償金によることには正当性がないのではないか」とする意見も見られる。
確かに、DRMはデジタル環境下における著作権管理の中心的なテーマであることには間違いがないところから、今後、DRMと著作権法との関係等、DRMの制度設計について、さらに議論が深まるものと思われるが、今のところ、以下の6に示す「PCからiPod」への私的録音行為に対して、権利の所在を明らかにして使用料を確保し、権利を行使するための確実で効果的な技術的手段とシステムが確立されているのかどうかは疑問でもある。
したがって、現時点において、当該機器等による私的録音問題を考える場合は、現行の補償金制度のうち、sarahが採用している二つ目の方法(購入時支払)によって権利行使を行うことが現実的であり、実効性のある対応の仕方といえるのではないだろうか。
そうしてみると、表題の当該機器等を政令指定すべきかどうかについては、これらの機器等が、第30条 第2項において補償金支払いの対象から除外するものとして定められている「録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音の機能を有するもの」への該当の有無を確認して、「当該機器等の購入行為が私的録音を行うという高い蓋然性を有しているのかどうか」を判断し、さらに、「権利者と利用者の利益バランス」を考慮して、決定されるものであると思われる。

5. 民間企業の市場調査部門による市場分析結果について
現在審議の対象とされている機器等に関連して、最近(05年9月)、コンピュータ・ニュース社の市場調査部門であるBCN総研によって興味ある市場分析の結果が公表された。
それは「携帯MP3プレーヤーの利用に関するアンケート」結果である。
そこで、その調査内容の一部を見てみると、次のとおりとされている。
調査内容(抜粋・要約)

(1) 所有の携帯オーディオプレーヤーの種類
(調査結果)
回答者が所有する携帯オーディオプレーヤーの種類としては、「携帯MP3プレーヤー(HDD内蔵型)」が26.6%と最も多く、次いで「携帯MDプレーヤー」、「携帯MP3(フラッシュメモリ内蔵型)」(それぞれ24.6%)、「携帯CDプレーヤー」の順となっており、携帯MP3プレーヤー(HDD内蔵型+フラッシュメモリ内蔵型+メモリカードカード装着型)の所有者は57.6%を占め、従来型の携帯MD/CDプレーヤーの所有率を上回る結果となっている。

(2)携帯MP3プレーヤーで利用している音楽ソース
(調査結果)
携帯MP3プレーヤーで利用している音楽ソースとしては、「販売店で購入したCD」(67.9%)が7割近くを占め、次いで「レンタルショップで借りてきたCD」(48.8%)、「友人・知人から借りてきたCD」(27.8%)、「インターネットによる音楽配信サービス」(20.5%)となっている。

6. iPodに代表される当該機器等の位置づけについて
私的録音を行うという「蓋然性」、いわゆる私的録音が「ごく普通に行われる状態」かどうかについては、基本的には、デジタル録音の「技術的特性の有無」と「目的・用途」、さらに「使用状況」を考慮して判断されるものと考えられる。
もともと、iPod製品開発のコンセプトは「1,000曲位の音楽を採り込めるスタイリッシュでポータブルな製品」であったと伝えられており(日本総合研究所 上田浩三氏「iPodに見るイノベーションのプロセス」)、高性能・十分な容量、シンプルなデザインと簡単な操作性などにこだわって、2001年末のクリスマス商戦を見込んで発売された新商品である。
その後、大容量化などの改良が重ねられ、現在では10,000曲も保存可能な商品も販売されており、これらのiPodシリーズはMDに取って代る録音・再生機器として注目を集めるようにまでになっている。
さらに、この8月に日本に上陸したiチューンズ・ミュージックストア(ITMS)と組み合わせることによって、iPodの市場は、さらに拡大されようとしている。
そこで、まず、iPodのパンフレットを見てみると、「すべての機能は音楽をとことん楽しむために」、「miniには1,000曲、iPodなら10,000曲も入る。もう、どのMDを持っていくかで迷わない」などのコピーを付して商品の説明がなされており、デジタル録音の技術的特性を備えたものであることは理解できる。
また、最近発売(9月8日)されたiPod nanoについて、同13日付けの新聞紙上で広告を掲載しているが、見開き2面もの大きな紙面で使用されている文字は「1,000 songs:impossibly small.iPod nano」だけであり、「1,000 songs」を際立たせて市場展開を図っていることが分かる。
このようなことからも、当該機器等の主たる目的・用途は、「音楽を楽しむため」のものであることは明らかである。
なお、録音機能以外にphoto機能等を有しているものがあったとしても、その機能を使用する(音楽を採り込むための機能を全く使用しないで)ためだけに当該機器等を購入することがあるとすれば、それは例外的な購入行為として捉えるべきものである。
さらに付言すれば、photo機能等を備えた機器があることから、これをもって汎用機器であるとする意見もあるが、問題は汎用機であるか専用機であるかではなく、上述の新聞広告の他にもiPodのパンフレットに「iPodシリーズは、ユーザーがとことん音楽を楽しめる環境を操作性と性能の両面から提供している。」などと書かれてあるように、その主たる用途が、「音楽を録音・保存・再生」することにある、ということが重要なポイントなのである。
そして、上述のBCN調査結果において、当該機器等が「携帯オーディオプレーヤー」の種類として位置づけられていることは注目に値するものであり、さらに、その所有率が従来型のMD/CDプレーヤーを上回るものとなっていることは、その容量の大きさと相俟って、当該機器等によって、すでに大量の音楽が録音・保存・再生されているという使用実態を示すものとして捉えることができる。

7. 当該機器等へ音楽を採り込む行為について
上述のBCN調査結果において、利用している音楽ソースとしては、「販売店で購入したCD」、「レンタルショップで借りてきたCD」、「友人・知人から借りてきたCD」、「インターネットによる音楽配信サービス」などが主なものとされている。
このように当該機器等に音楽を採り込む場合に、幾通りかの音楽のソースが存在するが、その音楽ソースを当該機器等へ採り込むまでの各利用態様ごとの位置づけについては、必ずしも正確に理解されていないのではないかと思われる。
そこで音楽ソースとされているミュージックCDと音楽配信サービスからiPodへ音楽を採り込む場合を単純化して見てみると、次のとおりとなる。
すなわち:

(1) ミュージックCD → PC(私的録音(ア)) → iPod(私的録音(イ))
(2) 音楽配信サービス → PC(配信業者に対する許諾の範囲(ウ)) → iPod(私的録音(エ))

i) 各種音楽ソースからiPodに音楽を採り込むためには、PCが介在する。
ii) 「音楽ソースからPC」へのダウンロードと「PCからiPod」への採り込みは、それぞれ独立した別の行為であり、各行為ごとの位置づけを正確に捉えて考える必要がある。

〇 上記(1)の(ア)の行為も「私的録音」であるが、この部分については、別途に、補償金制度、あるいはDRM、法の枠組み等の検討が必要であると思われる。
〇 上記(2)の(ウ)の行為は、「配信事業者への許諾」(送信用サーバーへの蓄積からユーザーのPCへのダウンロードまで)の範囲として管理されている。

iii) したがって、ここで問題としているのは、「PCからiPod」への採り込みの部分、すなわち(イ)と(エ)の私的録音(現時点においては、この部分における個々の利用行為を正確に把握することは困難)についてである。

〇 なお、法制問題小委員会、及び新聞記事等において「配信事業者から使用料を徴収しているので、ユーザーから補償金を受領するのは二重課金ではないか」との指摘もあるが、上記のとおり、ネット上での音楽配信サービスにおける使用料は、(ウ)の行為に対する許諾の対価であって、(エ)の私的録音部分については、別途の行為として、補償金支払いの対象となるものであることを理解する必要がある。

まとめ

(1) iPodに代表される当該機器等は、その「技術的特性」、「目的・用途」、「使用実態」等から「音楽を楽しむ」ために設計され、発売されている製品であると理解される。

(2) 第30条 第2項において、補償金支払の対象から除かれるものとして「録音機能付きの電話機その他の本来の機能に付属する機能として録音機能を有するもの」という限定が設けられているのは、「私的録音に通常供されないもの」を対象から除外するという趣旨(加戸守行氏 著作権法逐条講義)とされており、当該機器等の録音機能は、これまで眺めてきたとおり、他に存在する本来機能の「有効稼動を補完」させるというレベルのものではなく、録音機能それ自体が本来機能であると理解されることから、この法律上の限定にはそもそも該当しないものと解される。

(3) なお、「著作権法第30条 第2項は、機器と媒体を分離して規定しているので、現行の条文で想定していない『内蔵型』を政令指定するには、法改正が必要ではないか」といった考えも見られるようである。
確かに、制度導入時点においては「内蔵型」は登場していなかったのであるが、だからといって、このように字句の表現に拘り、固定した枠組みを決めて(この場合には「分離型」と決めて)結論を導き出すのは、いかにも概念的過ぎるのではないだろうか。 第30条 第2項は、デジタル方式の機器等による私的録音について補償金の支払い義務を課しているものである。
機器と記録媒体を分離して(というより、むしろ録音手段としてそれぞれを明示したと考えるべきではないかと思うのであるが)書かれているのは、「機器と記録媒体の両方があって、はじめて録音が可能となる」ことから、「報酬を支払うユーザーの立場を考慮すれば、機器と記録媒体の双方に広く薄くかけることとすることが適当」(著作権審議会第10小委員会報告書)とされているその趣旨を法律上明らかにしているものと受け止めるのが適当ではないかと思われる。
さらに条文上、記録媒体について、「これらの機器によるデジタル録音の用に供される記録媒体」とされているが、これは、いわゆる「機器と一体となって使用されるもの」の意味とされている(加戸守行氏 著作権法逐条講義)ことからも、もともと私的録音は、機器と記録媒体が一体となって可能となるものであるので、「内蔵型は」は、いわゆる「一体型」として捉えることができ、その製品構造は、むしろ条文上の趣旨に適うものであると考えられる。
しかしながら、あえて、新しい技術の登場によって条文上の解釈に戸惑いが生じているとするならば、法を解釈する上での指針となる上述の「著作権法の目的」、「補償金制度の趣旨」を尊重し、さらに「権利者、利用者双方の利益」を勘案しながら、具体的な妥当性を求めていくということが必要になるものと思われるが、その場合においても、答えは自ずから明らかであろう。

(4) さらに、「当該機器等の購入行為が私的録音を行うという蓋然性」を有するかどうかについてであるが、蓋然性とは、「私的録音行為が実際に起こるかどうかの確からしさの度合い」をどう捉えるかということであると思われる。
この場合の「確からしさの度合い」とは本来機能としての録音機能を有していることを前提として;

(1) 機器等を購入してからこれまでに私的録音を行ったかどうか、という過去の行為とともに、

(2) 補償金の性格(耐用年数の期間にわたる利用実態の不確定債務を私的録音行為に先立つ機器等の購入行為の時点で確定し、前払いで、一括・一回限り支払われるという性格を有する。)から、これから先、多分行うであろうという可能性の程度、将来おこる確実さの度合い、も考慮されなければならないものである。
この点に関し、BCN調査結果において、当該機器等の所有率が従来型のMD/CDプレーヤーのそれを上回っていることは、これまで音楽録音の主流であったMD/CDに取って代る機器等として、私的録音を行う確からしさの度合いの高さを示しているものといえる。
また、9月23日付けの日本経済新聞では、「携帯音楽プレーヤー 主役はiPod型」という見出しで、次のとおり報じている。
「携帯音楽プレーヤーの世代交代が加速している。8月にCD・MDプレーヤーの国内出荷台数が前年比30―50%減る一方、米アップルコンピュータ『iPod』をはじめとするネット配信に対応した大容量記録型がけん引し、『音声機器』全体の出荷額は二ケタ伸びた。音楽ネット配信サービスの広がりを背景に最新型が主役になりつつある。」
このように、本来機能としての技術の進歩、インターネットによる音楽配信市場の発達及びユーザーのニーズ等によって、「携帯オーディオ機器」、「音声機器」と位置づけられている当該機器等の市場占有率が確実に高まってきていることは、これらの機器等によって私的録音が「行われてきた」、「行われている」、及び「これから先、行う」ことの確からしさを示唆しているものといえる。

(5) ネット配信による音楽ソースを当該機器等へ採り込む行為を補償金支払いの対象とすることは「二重課金」であるとの指摘もあるが、この点については、上述のとおり誤解に基づくものである。

(6) 以上眺めてきた基本部分を押さえながら、iPodに代表される機器等によって大量に行われている私的録音を考える時、これらの「コピー」が、もし補償金の対象とされないことになれば、そのことは著作権法第30条 第1項の自由利用の適用範囲を拡大することと同様の結果を招くことになり、私的録音の自由が増大(利用者の自由度の増大)する一方で、権利者にとっては、報酬を得る機会が奪われる(権利保護の喪失)こととなってしまう。
また、上述のBCN調査結果において、当該機器等の所有率が最上位、又は第2位にランクされるまでになるには、商品の発売以降、一定の年数が経過しているわけであるが、今日に至るまで政令指定が行われていないことは、この間、補償金が支払われないまま、大量の商品がユーザーの手に渡っていることを示すものであって、このことは、権利者が得られるはずの膨大な経済的利益が失われてきたことになる。
このような状況は、一定の補償金を支払うことによって「権利者と利用者の利益を調整する」ために導入された補償金制度の趣旨に反するものである。

(7) さらに、著作権法の目的として定める「著作者等へのインセンティブの付与と利用者の自由度とのバランス」が崩れることにもなり、もともと「利用者の自由度」が「著作者等のインセンティブ付与」を圧倒するような状況を著作権法は期待していないことから、現状をこのまま放置しておくことは、著作権制度の空洞化を来すことにもなる。

(8) したがって、このような危機的な状況を生じさせないためにも、また、権利者、利用者そして機器等のメーカーがともに栄える秩序を創出するためにも、iPodに代表される「ハードディスク内蔵型録音機器等」については、一刻も早く政令に追加し、権利者に適正な報酬が支払われる環境を整えることが求められているといえる。
そして、この政令指定問題については、現行のシステムをよく考察すれば理解できるように、「制度の根本的見直し」を行うまでもなく、すでに整備されている現行のシステムに則り、「運用」上の問題として、政令指定のための行政手続きを進めることによって、解決できる問題であると思われる。

このように、iPodに代表される機器等は、「霞ヶ関行きの電車に乗るためにプラットホームで待機している」のであって、乗車を待ち望んでいる電車の到着を、これ以上遅らせてはならないのである。

以 上

コメントを投稿する





*

※コメントは管理者による承認後に掲載されます。

トラックバック