続・随筆「ある日の同窓会、そして“知的財産立県”の提唱

棚野正士備忘録

IT企業法務研究所 代表研究員 棚野正士

 2008年1月9日、IT企業法務研究所(LAIT)のホームページwww.lait.jpの「棚野正士備忘録」のサイトに、随筆「“知的財産立県”の提唱」を掲載した。今年2008年10月26日、高校の同窓会(土佐高校31回生)を機に郷里高知に帰省した折、この問題を改めて考えてみた。  同窓会の前夜、月の名所桂浜の浜辺で前夜祭が行われた。浜辺には桂浜水族館(館長は同級生の永国雅彦)があり、その前の砂浜にテーブルが用意され有志27人が集まった。  桂浜は高知県人にとって、心のふるさとである。わたくしも幼稚園の時から桂浜には格別の思いがある。太平洋の波が寄せる浜の美しさと遥か彼方まで続く青い海と南国の太陽、そして美女ならぬ美魚たちが泳ぐ水族館、砂浜の裏山に立つ本山白雲制作の坂本竜馬像、これらが統合された南国の空気が土佐人の心を捉えるようである。  わたくしは社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)で30年間、主に著作権法制に関わる仕事をしてきた。国内法の整備やNGOの立場からの条約づくりや法律を根拠とする契約、あるいは契約に基づくお金の徴収、分配などに係わってきた。立法や法の改正、あるいは条約づくりの運動は時間のかかる困難な仕事であるが、そこにはロマンがある。しかし、契約問題やお金の徴収、分配になるとリアリズムの次元に入り、道は険しくなる。険しい道に入り込み暗い気持ちに耐えられなくなると、わたくしは南国高知に帰り、太陽の光を浴び海を見て、太平洋に向かって立つ竜馬像を眺め、水族館の魚に心慰め東京に戻った。現役時代は桂浜によって精神のバランスを保った。桂浜は暗闇から心が開放される光と希望の場所であった。

大鯛を見せる永国雅彦(左)と徳広利夫(右) 【大鯛を見せる永国雅彦(左)と徳広利夫(右)】

 その桂浜の浜辺で同窓会の前夜祭が開かれた。地元で獲れた新鮮な魚がふんだんに出された。その中には、漁を趣味にする友人が前日に偶々釣り上げた5kgの大鯛も提供された(その友人、入野は、ゴルフでホールインワンをするより難しいと話していた)。料理は地元の婦人会の女性達が手作りで準備してくれた。  ボランティアでわたくしたちのために料理をしてくれたご婦人達は“浦戸会”(会長は同級生の徳広利夫)と称する集まりの婦人部の元お嬢さん達である。彼女達は料理の腕もすごいが、芸もすごい。“花子一座”と称して踊り、歌い、芝居もやる。その日は座長の花子さん(本名岡林真知子さん)や日本舞踊・坂東流の徳広良子師匠を中心に惜しげもなく芸を披露してくれた。衣装やかつら、小道具、簡易舞台も発想が豊かでアイディアに富んだ手作りのものばかりである。しかも、その芸は土俗的というか民俗的というか、“伝統的土佐臭さ”を踏まえた本格的なものである。まさに“土佐のアーティストたち”である。波の音を聞きながら、浜の風を膚に感じながら、どこにもない最上の料理を味わい、魂を開放させる至福の芸を見て、わたくしたちは一夜を心の底から楽しんだ。涙が出るほど楽しんだ。  何がそこまでさせたか。それは地元の人たちのハートである。後で聞いた話では、浦戸会の花子一座は“徳広(浦戸会会長)、永国(水族館館長)、わが命”と思っているそうである。  これまで、わたくしは桂浜のキィワードは、“海、太陽、水族館、竜馬像”の四つだと思っていた。しかし、今回もっと大切なキィワードがあることに気がついた。それは“ハート”である。人をもてなそうとする暖かい心である。ひとの体を流れる熱い血である。  ハートこそ究極の知的財産ではないか。人を迎えようとする熱い心こそ、地域を興す知的財産立県を根底から支えるものではないか。知的財産は最終的にはハートにある、今回わたくしは桂浜でそう確信した。

(2008.10.29記)

以上

コメント

たなの まさし wrote:
7月2日付け高知新聞「声ひろば」投稿“ウミガメ餌やり事件”への
若い女ともだちからの反応

知財忍者・青い蝶こと棚野正士

[M.Sから]
投書が掲載されたんですね。
私は、ウミガメ事件のこともその訴訟のことも知りませんでした。
投書を読み、おじさんならではの心温まる文章の中に、故郷と水族館館長であるご友人を大切にされる熱い思いを感じ、私も『桂浜を世界遺産に』の運動を応援したいと思います。

[R.Sから]
青い蝶さま、おはようございます!
水族館の方々も怪我された方もお気の毒ですが、あの桂浜で訴訟だなんて、うまく言えませんが、さみしいことですね。
一方、この投書は目を引くと思うので、目にした方がそれぞれの桂浜への思いを再認識されるきっかけになるのではないでしょうか。
今回の震災に際し、思い出や郷土愛は人間の尊厳だと強く感じました。
たいせつなものは姿のあるうちからたいせつにしないといけないなと思いました。
それにしても投書が採用されるなんて、さすがですね!

[H.Hから]
おはようございます。
投書、お送り下さってありがとうございました。故郷と自然界、旧友を思いやる暖かく力強い投書ですね。
本当にこの一件、うまく早く落着するといいですね。ウミガメ君の為にも。
それにしても、心落ち着ける場所,戻れる場所があるというのは素晴らしいことです。ストレス社会の現代では、必須ですね。リフレッシュでき、パワーを蓄えられますね。
また夏は帰郷されるのでしょうか。
梅雨明けもしていないようですが、真夏の暑さの毎日、体調を崩さないようにご留意下さい。

[M.Hから]
おはようございます。
昨晩は有り難う御座いました。

今朝改めて投書文を拝読致しました。
棚野大親分の文章力に感動致しました。
ソフトな印象の中にも意見はシッカリと、ご友人への応援、誰もが傷つかない表現。改めまして尊敬でございます、わが大親分。

[H.Sから]
青い蝶はいろいろ考えますね。世界遺産運動はゼッタイ応援したいです。四国にはユネスコの世界遺産はないみたいですものね。自然と歴史と文化に溢れる月の名所桂浜はもしかしていけるかも。

2011-07-08 00:52:17
棚野正士 wrote:
高知新聞「声ひろば」投書(7月2日掲載)

IT企業法務研究所代表研究員
棚野正士

“ウミガメ餌やり”事件

 今年5月23日と6月15日の高知新聞に、「ウミガメ餌やりで指切断 桂浜水族館」「ウミガメ負傷訴訟 桂浜水族館争う姿勢」という記事が出ていました。 桂浜の象徴は本山白雲制作「坂本龍馬像」と「桂浜水族館」ですが、新聞報道によると、桂浜水族館で2009年8月、ウミガメに餌を与えていた客の女性が手をかまれ重傷を負う事故があり、損害賠償訴訟が起きているようです。 
幼稚園の頃から何かにつけて桂浜に行っては水族館を見、成人しても仕事に行き詰まりを感じると、桂浜の太陽の下で太平洋を見て精神的エネルギーを蓄え、老年期を迎えては、いずれ桂浜で海を見ながら消えて行きたいと夢想したりで、桂浜はわたくしにとってはいわば心のふるさとであり聖地です。
その聖地で、長寿の象徴であり神聖な生き物とされている亀が事件の原因となり、訴訟にまで発展するとは、ウミガメ本人もいちばん困り本当に後悔して涙を流していると思います。 事件が早く解決してウミガメが安心する日が来る事を願います。その上で、自然に恵まれ歴史性と文化性を持つ桂浜がユネスコの世界遺産になるように、桂浜に心を寄せる人たちで熱い運動を起こしてはどうかと思います。

2011-07-05 17:33:36
棚野正士 wrote:
桂浜水族館のウミガメの涙
2011.6.30
IT企業法務研究所代表研究員 棚野正士

高知市浦戸の桂浜水族館で、ウミガメが辛い立場に追い込まれて涙を流している。高知新聞(高新)に掲載された二つの記事を紹介したい。

1.5月23日付け記事
高新5月23日付け記事は、「ウミガメ餌やりで指切断 桂浜水族館」という見出しで、「高知市浦戸の桂浜水族館(永国雅彦館長)で2009年8月、ウミガメに餌を与えていた客の女性が、手をかまれ指の一部を切断する事故があり、女性が22日までに同水族館に約1390万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁堺支部に起した。
 提起したのは大阪府堺市在住の女性(66)。訴状によると、女性は観光で友人と2人で同水族館を訪れ、職員に割り箸でウミガメに餌を与える「エサやり体験」を勧められた。女性は餌のキビナゴを買い、水槽のそばに立って割り箸でキビナゴをつまみ、右手を水槽の上に伸ばして餌を与えた。
 3匹目のキビナゴを与えようとした際、いきなりウミガメが水面から顔を出し、女性の右手小指をかみ、女性は小指の先端部分を切断する重傷を負った。」と報道している。
 この記事を見て、たいへん痛ましい思いもかけない事故で、被害を受けた女性に同情した。ウミガメに対して、「そんなことをしたら、おまん、いかんぜよ。」と責める気気持ちになった。

2.6月15日付け記事
 高新6月15日付け記事は、「ウミガメ負傷訴訟 桂浜水族館争う姿勢」という見出しで、「高知市の桂浜水族館のウミガメ餌やり体験中に手の小指をかまれ負傷した大阪市堺市在住の女性(66)が同水族館に対し、約1400万円の損害賠償を求めている訴訟の第1回口頭弁論が14日、大阪地裁堺支部で開かれ、水族館側は全面的に争う姿勢を示した。
 訴状によると、女性は2009年8月に同館を訪れ、職員に『餌やり体験』を勧められた。割り箸でキビナゴをつまんで与えようとした時、ウミガメが水面から顔を出し、右手小指にかみついた。右手小指の先端部分を切断する重傷を負い、痛みなどの後遺障害がある。(略)
 一方、水族館側は女性の訴えに対する答弁書を陳述した。
 それによると、館では約59年間、ウミガメの餌やり体験を実施しているが、受傷事故は起きていない、餌やりは約20センチの箸を使うので危険性はない。箸入れの置き台には餌やりの仕方について説明文を掲示し、安全に配慮している。
 そもそも原告は、餌をやろうとしたのではなく、ウミガメをなでようとしてついまばれた。女性は当日、「カメがかわいいので頭をなでようとしてこんなことになった。ごめんなさい」と館職員に話している。女性は右手小指の先を『切断した』重傷としているが、小指先端の肉がわずかにそげた軽傷だ。雑食性のウミガメに歯はない。事故から5ヶ月以上経過後、接骨院に約10カ月通院し、治療費名目で水族館側に約70万円を支払わせているが、大半を水族館に返還すべきだーなどとしている。」と報じている。
 この記事を見てほっとした。ウミガメも「そうじゃ、そうじゃ、そのとおりじゃ。」と言っているかもしれないと思った。

3.本当はどっちだろう
 前記二つの記事では本当のところは分らない。前の記事は被害を受けた原告の女性の訴状を紹介しており、後の記事は被告である水族館の答弁書を紹介しているからである。当事者のウミガメは口がきけないだけに、「本当のことを言いたいちや。」と焦っているのではないかと考える。
 係争中の事件を記事にするのは難しいと思うが、読者の立場から言えば、記者が被害者と行動を共にした友人や当日いっしょにいたお客さん、あるいは複数の水族館職員を取材して、さらには、ウミガメの生態や口腔構造なども調べて、もっと記事を深める必要があるのではないか。原告と被告の言い分だけを紹介するなら素人でも書ける。
 しかし、プロの新聞記者なら読者のために、広い視野で深い洞察力で面白い記事を書くべきだと思う。高知新聞の読者の多くは桂浜を愛する人々だと思う。その人たちのためにも、正確に事実を把握した上で事件を報道してほしい。
 桂浜を愛し桂浜に心を寄せる人たちにとって、桂浜の象徴である桂浜水族館の出来事は気になるところであり、まして訴訟が起きているとなると心配である。当事者のウミガメは自分が原因で訴訟が起きていると思って心配していると思うが、桂浜を愛するわたくし達も心配である。
 本当のところ何があったのかを知りたいし、争いが早く解決する事を心から願いたい。

4.ついでに(桂浜をユネスコ世界遺産に)
 桂浜は優れた自然環境を持つ文化性豊かな浜辺である。
 “よさこい節”では「御畳瀬(みませ)見せましょ 浦戸(うらと)をあけて 月の名所は桂浜(かつらはま)」と謳われ、わたくしなどはよさこい節を歌うたびに涙が出てくる。歌人大町桂月ゆかりの地であり、まさに月の名所である。
 浜には桂浜水族館があるが、裏山のてっぺんには本山白雲制作の坂本龍馬像が太平洋に向かって立っている。高知県立坂本龍馬記念館もあり、近代日本の建設を象徴する地であるとも言える。
 月の名所で白砂青松の自然豊かで、歴史性と文化性に恵まれたこの桂浜を、ユネスコの世界遺産にする運動は出来ないかと考える。
 いま、ウミガメを困らせて人間が争っている場合ではないように思うが、それは他人の勝手な思い入れだろうか。               以 上
 

2011-06-30 14:13:35
棚正士 wrote:
銀座の「おきゃく」

銀座一丁目の高知県アンテナシヨップ「まるごと高知」の2階に「TOSA DINING“おきゃく”」(ジェネラルマネージャー・プロデューサー濱田知佐さん)がある。
高知では客人をもてなしてご馳走することを“おきゃくをする”という。“おきゃく”という言葉には人をもてなす“もてなしの心”が込められている。
地域振興には風光明媚な自然資源も大切であるが、何より大事なのは“ハート”である。客をもてなそうという“もてなしの心”である。その心こそ無形の観光資源である。
“おきゃく”は高知の県民性を象徴する言葉である。「まるごと高知」に行くと、高知のハートが味わえる。
なお、わたくしは言語による地域振興も大事ではないかと思い、土佐言葉を標準語にする運動を広げたいと思いゆう。“おきゃく”に行くと、土佐弁の使い手もいる。一度顔を出して頂きたい。以上(棚野正士記)

2011-03-01 16:20:27

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