実演家の著作隣接権を巡る気になる課題―思いつくままー

棚野正士備忘録

(これは、2008年7月9日、社団法人日本音楽事業者協会著作隣接権委員会から招かれてレクチャーしたときのレジュメである。)

棚野正士(IT企業法務研究所代表研究員)

1.著作権法制度における実演家の位置

(1)著作権と著作隣接権 (2)著作者と実演家 (3)放送事業者と実演家  【参考】
  1. 加戸逐条講義「放送事業者が行う放送を著作隣接権の目的とすることにつきましては、放送自体にある程度の創造性を認めるという観点もあることはありますが、むしろ、実演を公衆に伝達するもっとも有力な媒体としての性質上、実演家の利益を実質的に確保する手段として放送事業者に権利を認めるという発想が強い」(五訂新版565頁)
  2. CATV訴訟
(4)レコード製作者と実演家  【参考】

河野愛助教授「sound recordingsを著作物であるとするために、そこに含まれている実演の創作性というものが根拠として持ってこられている。そういう意味ではsound recordingsの創作性は実演家の実演によって形成されているという位置付けになっている。」(コピライト358号5頁(1990)「日米間における最近の著作権問題についてーレコードの保護をめぐってー」)

2.著作権法の中に、事業者の位置付けはなくてよいか。

(1)著作隣接権の主体 (2)ドイツ法の考え方  【参考】

第81条(主催者の保護)実演芸術家の実演が事業によって催されるときは、第77条(注:収録、複製及び頒布)第1項及び第2項第1文並びに第78条(注:公衆再生)第1項に基づく権利は、実演芸術家とともにその事業の保有者にも帰属する。第31条(注:使用権の貸与)第1項から第3項まで及び第5項、第33条(注:使用権の持続効)並びに第38条(注:編集物の構成物)は、ここに準用する。

(3)法人著作の考え方  【参考】

第15条 法人その他の使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則、その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

(4)オーケストラ、合唱、グループなど

3.実演家の「録音録画権」と「複製権」(「複製権」の提案)

 【参考】

著作者=複製権(21条) 実演家=録音権及び録画権(91条) レコード製作者=複製権(96条) 放送事業者=複製権(98条) 有線放送事業者=複製権(100条の2) 「複製」=印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること(第2条1項15号) 「録音」=音を物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。(第2条1項13号) 「録画」=影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。(第2条1項14号)

追記:韓国著作権法に見る実演家の「複製権」 大韓民国著作権法(1986年12月31日法律第3916号)第63条(録音、録画権等)は「実演家は、その実演を録音若しくは録画し又は写真で撮影する権利を有する。」と規定している(『外国著作権法令集(7)-韓国・台湾編-』(著作権資料協会,1987))。「写真で撮影する権利を有する」ことを定めていることは、日本の著作権法における実演家の権利と異なる特徴である。その後改正された大韓民国著作権法(1995年12月6日法律5015号)では、第63条(複製権)は「実演者は、その実演を複製する権利を有する。」と規定して、第2条(定義)14号(複製)で、複製とは「印刷、写真、複写、録音、録画若しくはその他の方法により有形物に固定し、又は有形物として再製作すること(以下、省略)」と定義している(金亮完訳『外国著作権法令集(35)-韓国編-』(著作権情報センター、2006))。

4.「ワンチャンス主義」というユウレイ

(第63条<第103条で実演家に準用>の重要性)  【参考】

第63条 著作者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。(第103条で準用=実演家は、他人に対し、その実演の利用を許諾することができる。) 2 前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる。(第103条で準用=前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る実演を利用することができる。

5.i-Podに見る法解釈

 【参考】

第30条2項 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(略)であって政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であって政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

6.実演家の喉に刺さった40年の小骨

(1)1961年の「ローマ条約」と2000年の「WIPO視聴覚実演の保護に関する外交会議」 (参考:ローマ条約第19条(映画に固定された実演) この条約のいかなる規定にもかかわらず、実演家がその実演を影像の固定物又は影像及び音の固定物に収録されることを承諾したときは、その時以後第7条(注:実演家の権利)の規定は、適用しない。) (2)国内法の整備 (3)実演家の権利の基盤整備

7.CPRA設立時の基本思想

8."一日では森は造れない"

以上

コメントを投稿する




*

※コメントは管理者による承認後に掲載されます。

トラックバック