随想:ある日の同窓会、そして“知的財産立県”の提唱

棚野正士備忘録

棚野正士(IT企業法務研究所主任研究員。土佐高校31回生)

(本稿は土佐高同窓会記念文集「くろしお 第4集」<平成15年11月18日発行>に掲載されたものである。「知的財産立国」ならぬ「知的財産立県」を考えるよすがにしたい。08.1.9 筆者)

 関東地区在住者を中心とした第31回生同窓会が、2003年4月のある日、東京新橋の中華店・新橋亭で開かれた。
その中に、ルイ・ヴィトンの秦郷次郎がいた。秦は3月にルイ・ヴィトンの高知店を出したばかりである。はりまや橋と高知駅を結ぶ線上に美しい店舗が出来ている。帯屋町が横軸とすれば、その店は縦軸の線上にあり、横軸、縦軸で伸びる町づくりの大切な基点になるだろう。
 同窓会には、桂浜水族館の永国雅彦がいた。1931年に創立された水族館は高知県人にとっては心のメルヘンである。この前高知に帰った時、オホーツク海の流氷の下に棲む小さな魚「プリオネ」を米沢善脩と一緒に見てきた。集まりには、油絵を描いている木村桂子と前田哲がいた。木村は画歴二十数年の本格的画家であり、定期的に展覧会を開いている。今年3月には銀座の画廊で、「緒方一成と仲間達」を開いた。木村の作品「春一番」は今も目に焼き付いている。前田は今年6月、太平洋美術展「東京グループO(オー)美術展」に力作“村の水辺”を出し奨励賞を得ている。音楽をやっている馬詰勝治もいた。馬詰は長野にいて、いまは仕事を離れて、「信州国際村合唱団VPG」で活動している。この合唱団は全国的に有名であり、今年2003年10月にはオペラ「椿姫」を上演する。
 ブランド、絵画や音楽など、これらは知的財産である。今、知的財産が国家戦略になり、知的財産立国が国是になっている。これは、「技術、デザイン、ブランドや音楽・映画等のコンテンツといった価値ある情報づくり、すなわち無形財産の創造を産業の基盤に据えることにより、我が国経済・社会の再活性化を図るというビジョンに裏打ちされた国家戦略である。」と政府は言っている。この流れの中で、知的財産基本法が、平成14年に生まれ、文化芸術振興基本法も平成13年に成立した。
 知的財産が国の戦略になり、個人の生活でも、知的財産が本当の豊かさをもたらすことが認識される時代になった。秦はブランドの力を信じ、30年前から知的財産による国づくりを先取りしてきた。私は30年間、(社)日本芸能実演家団体協議会に勤め、著作権法業務に従事してきた。条約づくり、法律づくりの運動にNGOとして忙殺されながら、文化芸術の分野で知的財産に関わってきた。
 今これまでの組織を離れて、IT企業法務研究所という出来たての民間シンクタンクで研究員をして、知的財産権全体の研究をしているが、高知を舞台に個人的に挑戦してみたいことが二つある。一つはペギー葉山記念館をつくることである。ペギーさんは、1959年以来40年以上「南国土佐を後にして」を歌唱し、現在高知県名誉県民である。何千回も歌っていると思うが、ペギーさんのすごさは回数ではなく、奥の深い表現力にある。ペギーさんが表現する広く奥深い歌唱の世界が南国土佐を日本国民の心に刻み込んだ。
 記念館のことを同窓会で話題にしていたら、ディック・ミネ記念館も一緒に考えたらどうかという。亡くなった大歌手ディック・ミネは、土佐中初代名校長三根円次郎先生の息子である。ディックさんはよく“ぼくのお父さん”と言って、三根先生のことを話していた。学生の頃、三根先生と田舎で汽車に乗っていたら、お父さんが三人位の不良にからまれたので、駅に停まったとき外に連れ出して殴ったという。戻ってきたら三根先生が「どうした?」と聞いたので、「殴りました」と答えたら、校長先生一言「よし」と言ったという、というような思い出を時々聞かされた。
 記念館は桂浜にどうかというのが酒を飲みながらの盛り上がりである。桂浜にできると、水族館といっしょに地域づくりが出来る。
 知的財産で言うと、もう一つ高知でやりたいことがある。種苗も著作権、特許、商標等と同様知的財産である。世界の知的財産権のセンターである国際組織・WIPO(世界知的所有権機関)には、条約づくりで毎年のようにNGOの立場でジュネーブに通ったが、そのWIPOでは、著作権、特許等とともに知的財産権の一つとして種苗も扱っている。高知の太陽と空気を生かして、新品種で地域づくりが出来ないだろうか。種苗に関しては、国際的には植物の新品種の保護に関する国際条約があり、国内的には植物新品種保護法(種苗法)がある。新品種を世界に広め、そのライセンスでビジネスするという新しい産業で南国土佐の県おこしをすることは出来ないだろうか。
知的財産権で“知的財産県”をつくりたい。“知的”の知を“高知”の知にしたい。いま、“知的財産”が時代を開くカギである。

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