商業用レコード二次使用料請求権の運用にみる実演家の著作隣接権思想の変容

棚野正士備忘録

(本稿は「著作権法と民法の現代的課題―半田正夫先生古希記念論集」(法学書院、2003年3月1日発行)に掲出)

棚野  正士 IT企業法務研究所代表主任研究員 (社)日本芸能実演家団体協議会(芸団協) 前専務理事

1.はじめに

 実演家の権利の中で、商業用レコード二次使用料請求権は最も重要な権利であり、又法律上の解釈も運用上も、考え方が最も難しい権利である。  この権利は、他の実演家の著作隣接権と沿革を異にし、実演家の「機械的失業」「技術的失業」(technological unemployment)の救済が成立の根底にあり、知的所有権的考え方よりも労働法的考え方が底流にあったからである。  この小論では、労働法的考え方、社会法的考え方から知的所有権的考え方、私法的考え方への変化、そして、さらには現代法的発展ともいうべき今後の径路を商業用レコード二次使用料請求権の運用面から捉えておきたい。

2.ローマ条約(実演家等保護条約=実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約。日本は平成元年加入)の作成

 わが国の著作権法における実演家の権利は、一九六一年に作成されたローマ条約をモデルとしている。条約は一九六一年一○月一○日から一○月二六日までローマで開催された実演家、レコード製作者及び放送事業者の国際的保護に関する外交会議で起草された。  ILO、ユネスコ、ベルヌ同盟による「一般報告者の報告書」は冒頭次のように記している(昭和三七年五月文部省発行「実演家、レコード製作者及び放送事業者の保護に関する条約要覧」から)。  「この会議は、長い準備の帰結であった。新条約によって保護される諸権利は、文学的及び美術的著作物保護国際連盟により一九二八年にローマで開催された外交会議の対象となったものであった。一九三○年以後、ILO(国際労働機関)は、音楽家の失業に関する問題を研究し、それ以来絶えずこの問題に関心を持って来た。会議が一九三九年にサマダン(スイス)で開催され、ベルヌ同盟によってブラッセルで開催された改正会議(一九四八年)において希望が表明され、また、一九五一年には、ローマで開催された専門委員会がローマ草案と呼ばれる条約草案を起草した。一九五六年には、他の草案が国際労働機関事務局の主催の下に完成し(ILO草案)、そして、一九五七年には、いわゆるモナコ草案がユネスコとベルヌ同盟の主催の下に作成された。もう一つの専門家委員会が、国際三機関の共同招請により、一九六○年にヘーグで開催された。この会議の討議は、(略)今回ローマで行われた討議の基礎となった条約草案(以下「ヘーグ草案」と呼ぶ。)を作成した。」  ILO草案とモナコ草案を比較すると、モナコ草案は、実演家、レコード製作者および放送事業者の保護について世界の多数の国に通用することに配慮を払い、最小限の保護を内容として他は内国民待遇にまかせているが、ILO草案は、保護の水準が比較的高く、また社会的・経済的な面に主眼を置き、とくに複製技術の発達に伴う実演家のいわゆる「技術的失業」を救済するというねらいに重点を置いている。(前述文部省「条約要覧」)

3.ローマ条約(実演等保護条約)第一二条(レコードの二次使用)

 前述文部省「条約要覧」は、一九六一年の外交会議で、実演家及びレコード製作者の保護に関して特筆すべきことは、レコードの二次使用の問題であったと述べている。二次使用に関して条約上いかに定めるかということは、外交会議の開かれる前から最も困難な問題であったし、外交会議においても最後まで論争の焦点となったと記している。  ローマ条約(実演家等保護条約)第一二条は、「商業上の目的のために発行されたレコード又はその複製物が放送又は公衆への伝達に直接使用される場合には、単一の衡平な報酬が、使用者により実演家若しくはレコード製作者又はその双方に支払われる。当該報酬の配分の条件については、当事者間に合意がない場合には、国内法において定めることができる。」と定めている。ローマ条約第一二条について、WIPO(世界知的所有権機関)の条約解説で、クロード・マズイエ氏は、「レコード使用の結果は、芸術家にとっての機会を減らすことになる。仕事を失い、また仕事を得ることが更に難しくなり、彼らは、技術的失業に苦しむ。一方では、更に、彼らは、彼らのレコードを使用する者が得る利益の配分を受けない。彼らは娯楽市場において、逆説的に云えば彼ら自らが寄与したレコードとの競争に直面している。」と解説し、又、報酬の分配について、「条約が定めていないもう一つの重大問題がある。それは、実演家に支払われるべき報酬は、各個人に分配すべきか、又は実演家の団体に渡して実演家全体の利益のために共通の若しくは社会的目的に使用することができるかである。」「条約は、二次使用は実演家全体に損害を与えるのであるから、もっぱら補償の問題であることを根拠にして、加盟国が個人の権利を無視して、集団制度(collective system)を設けることを条文上禁止していない。この見解をとるならば、相互援助基金を設けることができる。このような解決策は、特に、開発途上国において、地域の芸術家にとって助けとなりうる。」(著作権情報センター発行、大山幸房訳「隣接権条約・レコード条約解説」)  ローマ条約作成に至るILOの活動は重要であり、ここでは実演家の労働問題が底流にあり、この流れはわが国の著作権法における実演家の権利にも持ち込まれている。著作権法は私権を定めた法体系であるが、この法律で、レコード二次使用の規定は他の権利に比して異質の性格をもっていると言える。

4.著作権制度審議会への諮問と答申

 昭和三七年五月一六日付で文部大臣(荒木萬寿夫)は著作権制度審議会(会長赤木朝治)に著作権法(明治三二年法律第三九号)の改正ならびに実演家、レコード製作者および放送事業者(いわゆる隣接権)の制度に関し基礎となる重要事項について諮問し、昭和四一年四月二○日付で著作権制度審議会(会長江川英文)は文部大臣(中村梅吉)に答申した。  「レコードの二次使用に関する実演家およびレコード製作者の権利」について、答申は次の通り述べている。 (1) 商業目的をもって発行されたレコードが放送等営業の不可欠の要素として用いられる場合には、レコード製作者および実演家に正当な単一の報酬を請求する権利を与えるものとする。 (2) 二次使用料の及ぶ範囲については、当分の間放送(いわゆるミュージック・サプライを含む。)に限定することとし、将来、隣接権制度が国際間で広く確立されるにいたったときにあらためてその範囲を検討することが適当である。 (3) 報酬請求権は、レコード製作者が行使し、報酬のうち相当額が実演家に分配されるべきものとする。  なお、報酬の額等に関する当事者間の紛争については、調停あるいは裁定の制度を設ける要があり、この場合、報酬の額については、現状に急激な変更を加えて放送事業者の負担を過大にすることのないように配慮することが必要であると考える。」  著作権制度審議会は答申の趣旨を説明書で述べており、レコード二次使用に関しては、「レコードの二次使用によって実演家がいわゆる機械的失業に陥ることについては、実演家に何らかの補償を与える必要があると考えられるところであり、また、レコードが通常目的とする使用の範囲よりも非常に広く多くの人に聞えるように使用され、かつ、それによって利益があげられる場合には、そのようなレコードの二次使用によって利益を得ることをまったく自由であるとすることは、レコード製作者とレコード使用者の利益の均衡から考えて適当でないと考えられる。」  ここに見るように、レコードの二次使用について、実演家の機械的失業に関し、実演家に何らかの補償を与える必要があると認識しつつ、権利はレコード製作者が行使し、報酬のうち相当部分が実演家に分配されるべきであるとしている。(注:昭和四五年に成立した現行著作権法は、レコード製作者および実演家それぞれにレコード二次使用料請求権を定めた。)

5.著作権法第九五条(商業用レコードの二次使用)

 ローマ条約第一二条を受けて、著作権法第九五条(商業用レコードの二次使用)第1項は、「放送事業者及び有線放送事業者(略)は、第九一条第1項に規定する権利を有する者の許諾を得て実演が録音されている商業用レコードを用いた放送又は有線放送を行った場合(略)には、当該実演(略)に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない。」と定めている。  そして、権利の行使について、著作権法は「第1項の二次使用料を受ける権利は、国内において実演を業とする者の相当数を構成員とする団体(その連合体を含む。)でその同意を得て文化庁長官が指定するものがあるときは、当該団体によってのみ行使することができる。」(第九五条第4項)と規定し、指定団体制度を定めている。  文化庁は昭和四六年三月一一日付けで、社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)を二次使用料を受ける団体として指定しているが、昭和四五年八月一日付けで文化庁は指導要領を芸団協に示している。それによると、二次使用料請求権を実演家に認めた趣旨は次の通りである。  「二次使用料を受ける権利は、法律構成上は、実演が固定されている商業用レコードの二次使用について、当該実演家に認められる権利となっているが、本来この制度は、レコードの二次使用による経済的利益の一部を当該実演家に享有させるとともに、レコードの二次使用によって、当該実演家のみならず他の実演家の実演の機会が失われるといういわゆる機械的失業に対し、実演家全体に補償するという趣旨によって設けられたものである。」  指導要領は、 (1) レコードの二次使用料による経済的利益の一部を当該実演家に享有させる。 (2) 当該実演家のみならず他の実演家の実演の機会が失われるといういわゆる機械的失業に対し、実演家全体に補償する。 という法律の趣旨に基づいて、二次使用料の配分、積算基礎および配分額について、次の考え方を示している。 ・二次使用料の配分については、単位を定め、単位数をもって積算の基礎とする。 ・音楽の著作物の実演にあっては、一曲、一回の使用をもって一単位とする。ただし、一曲五分をこえる実演にあっては、五分をこえるごとにさらに一単位を加える。 ・音楽の著作物の実演以外の実演にあっても、前記に準じて単位を定める。 ・放送に係る二次使用料の配分額は、芸団協が放送事業者から受けた二次使用料の総額を、放送使用に係る総単位数 をもって除して得た単位額に、各権利者の放送使用に係る単位数を乗じて得た額とする。音楽有線放送に係る二次 使用料の配分額についても、同様とする。 ・現在、放送および音楽有線放送で使用されている商業用レコード(外国原盤レコードを除く。)の使用の実態について、次の事項を早急に調査する必要がある。  (イ) 商業用レコードによる実演の使用頻度(総単位数相当)  (ロ) 音楽と音楽以外のものの比率  (ハ) 邦楽と邦楽以外の音楽の比率  (ニ) 邦楽以外の音楽で、歌を伴うものと伴わないものの比率  (ホ) 芸団協にその権利の行使を直接委任した権利者の単位数を計算するための基礎資料 会員団体における二次使用料の使用目的は次の通りとする。  (イ) 各会員団体が配分を受けた二次使用料は、当該団体における新人の育成、実演の機会を失った実演家に対する保障、芸術活動の振興等のために用いるものとする。  (ロ) 各会員団体は、芸団協と協議して、前記の二次使用料のうち一定額を全国芸能活動の推進と全国芸能実演家の地位向上のための資金として芸団協に拠出するものとする。

6.商業用レコード二次使用制度の立法趣旨

 前項の文化庁指導要項の背景には、第九五条(商業用レコード二次使用)の立法趣旨がある。  加戸守行「著作権法逐条講義三訂新版」は、立法趣旨について、「実演家に商業用レコードの使用に関して二次使用料を受ける権利を認めた趣旨は、実演家全体に対する補償的な意味合いが強いのでございますが、法律体系上は、使用された商業用レコードに収録されている実演を行った実演家の権利と概念せざるを得ないという法律技術上の問題があり、また、二次使用料自体が個別的に零細な支払いをすることにはなじまない性格のものでありますので、実演家の団体によっての一括権利行使のシステムをとりまして、その結果として二次使用料全体が実演家全体のために有効適切な用途に充当されることを期待しているというわけでございます。」と述べている。  加戸守行著作権課長(当時)は、昭和四八年芸団協著作権講習会で、「放送にレコードが流されると間接的にレコードの売上げに影響します。また放送事業者は、レコードを使わなければ、生番組をつくったはずであり、それだけ実演家の出演チャンスがあったはずです。つまり、実演家の実演のチャンスが失われることになります。  実演のチャンスが失われるのは、使用されたレコードに実演を入れている実演家だけではありません。全体の実演家がチャンスを失うことになります。法律の構成としては、レコードに入れた実演家に払うと規定されています。しかし、機械的失業に対する補償という立法趣旨から考えると、この規定の適用が問題となってきます。  どうしたらいいかという立法時の苦肉の策が、権利行使ができるのは文化庁長官の指定した団体だけであるという条文です。この条文を書くときは芸団協を念頭においており、法律ができてから芸団協を指定したのです。  芸団協が受け取った二次使用料は、個人でなく失業すべかりし全体のために使いなさいというのが立法趣旨です。形式上は個人の権利ですが、実質上は実演家全体の権利と概念すべきものです。つまり、一種の擬制、フィクションをしているわけです。」(機関紙「芸団協」昭和四八年一二月二○日発行第二二号)

7.指定団体における内部法規

 著作権法第九五条第4項により、商業用レコード二次使用料を受ける団体として文化庁長官から指定された芸団協は、昭和四六年内部法規を次の通り定めた。(注:内部諸規程はその後改正。)  (1) 権利者に分配すべき商業用レコードの二次使用料は業務規定により定めた額(注:毎年放送事業者および音楽有線放送事業者またはその団体と協議して定める。)を、放送事業者等が放送および有線放送に用いた商業用レコードの総使用量で除した額に、当該権利者の権利に係るレコードの使用量を乗じた額とする。  (2) 前項の定めにかかわらず、当分の間会員団体部門ごとに定める分配率によるものとする。  (3) 会員団体部門内における分配額は、各部門の会員団体の総意によりその責任においてこれを決定するものとする。  (4) 商業用レコード二次使用料運営委員会は、商業用レコード二次使用料の分配を受けた団体が、その金額を、当該団体における新人の育成、機器の再生により生の実演の機会を失った実演家に対する保障、芸術活動の振興等のために用いるように、指導監査しなければならない。  (5) 分配を受けた団体は、一定額を芸団協に全国芸能活動の推進と全国芸能実演家の地位向上のために拠出するものとする。(注:二次使用料の徴収、分配に要する手数料とは別に拠出する。)

8.判例

 指定団体である芸団協は、昭和五四年に大阪芸能労働組合員ほか関西在住の演奏家三九四名から、商業用レコード二次使用料分配金請求訴訟を起された。東京地方裁判所は昭和五七年に判決を下し、芸団協の主張を認め原告の請求を棄却した。  原告である演奏家の基本的主張は、二次使用料を受ける権利は、レコード吹き込みの有無等にかかわりなく、また芸団協に所属すると否とにかかわらずすべての演奏家に当然に与えられている、ということである。芸団協はこれを根本的に争い、原告の主張は失当であると主張した。  判決は、原告の請求を棄却して、その理由を次の通り述べている。  「著作権法第九五条第1項の規定によれば、二次使用料を受ける権利は、「当該実演に係る実演家」すなわち放送又は有線放送に用いられた商業用レコードに収録された実演を行った実演家に帰属すべきものと定められていることは明らかである。そして、同条は「当該実演(著作隣接権の存続期間内のものに限る。)に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない。」と規定し、二次使用料を受ける権利は、商業用レコードに収録された実演についての著作隣接権が存続期間内存続することを定めており、この点からみても、二次使用料を受ける権利が、商業用レコードに収録された実演と無関係にすべての実演家に帰属すべきものと介する余地はない。したがって、同法第九五条第1項の立法の沿革が原告ら主張のとおりであり、その立法の趣旨において、労働者としての実演家のいわゆる機械的失業に対する補償の意味があっても、商業用レコードに実演が録音されているかどうかにかかわりなく音楽実演家のすべてに二次使用料を受ける権利が与えられていると解すべきとする原告らの主張は、現行法の規定の文言を無視するものであり、到底採用できない。右の立法趣旨は、現行著作権制度のもとにおいて、指定団体があるときは、指定団体が、その内部的意思により、二次使用料の分配方法に関する事項を業務規定に定めるに当たり、分配を受ける者の範囲を商業用レコードにその実演が録音された実演家以外の実演家にも及ぼすことによって、間接的に達成されることが期待されているというべきである。」(昭和五七年五月三一日付け東京地方裁判所民事第二九部判決)  なお、この判決は控訴されたが、東京高等裁判所は原判決を支持し、控訴を棄却した(昭和六○年二月二八日東京高等裁判所第一八民事部判決)。  東京地裁判決にも見るように、レコード二次使用料を受ける権利は、「当該実演に係る実演家」すなわち放送又は有線放送に用いられた商業用レコードに収録された実演を行った実演家に帰属することは否定できない基本である。  このため、指定団体である芸団協では、内部規定で、「分配すべき二次使用料は業務規定により定めた額を、放送および有線放送に用いた商業用レコードの総使用量で除した額に、当該権利者の権利に係るレコードの使用量を乗じた額とする。」と定めている。  しかし、一方、内部規定で「当分の間会員団体部門ごとに定める分配率による」とし、WIPO条約逐条解説にいう「集団制度(collective system)」をとったのは、制度発足当初、受けるべき二次使用料総額が小さく(注:昭和四六年度三三○三万円、平成一三年度二六億八八八八万円)、且つ当該実演に係る実演家のデータ、二次使用されたレコードの使用データがなかったからである。

9.レコード二次使用料に関するロンドン原則

 レコード二次使用料は、「論理的見地からは、放送又は公の伝達に使用されたレコードに自己の実演を提供した実演家だけに報酬を支払うべき」(前述「隣接権条約・レコード条約解説」)であり、二次使用料制度先進国は、当然にそれを基本にしているが、一方でFIM(国際音楽家連盟)、FIA(国際俳優連合)は「二次使用料の包括使用と個人分配」「二次使用料についての二国間あるいは多国間協定」について「ロンドン原則」を取り決めた。  ロンドン原則は次の四項目からなり、第1・2・3項は一九六九年二月一四日に採択され、第4項は一九七八年一二月二○日に追加された。 (1) 徴収団体の当然の努力にもかかわらず、権利者が判明しないために個々の実演家に分配できない場合には、そのレコード放送使用料は実演家の職業の全体的利益のために用いられなければならない。ただし、この使用料を受ける団体は徴収団体に対して、レコードの放送使用に関する個人からのクレームについて、責任を免ずる適切な保証を与えなければならない。 (2) 必要とする情報がないために、使用時間に応じて個々の実演家に分配することができない場合には、そのレコード公開使用料は実演家の職業の全体的利益のために用いられなければならない。ただし、この使用料を受ける団体は徴収団体に対して、レコードの公開使用に関する個人のクレームについて、責任を免ずる適切な保証を与えなければならない。 (3) レコードの放送使用あるいは公開使用に対して実演家が使用料を受ける権利をもち、かつ必要とする情報がないため、あるいは権利者が判明しないために、この使用料を個々の実演家に分配できない国においては、その分配不能な使用料はその発生国に留められるべきである。 (4) 一般原則として、各国に対する徴収・分配は、その国の法律と国により認められた団体の規定によって管理され、また当事国に送金されるいかなる使用料の分配も、その国の法律と国により認められた団体の規定によって管理されなければならない。  しかしながら、FIMおよびFIAは次の見解を取り、IFPI(国際レコード産業連盟)はこれに同意する。すなわち、ある場合には、特に実演家の使用料が関与する限りは、この一般原則は各国の徴収・分配団体間の相互協定にもとづき、徴収国に使用料を留めるよう規定することができる。

10.運用上の変化ー団体分配から個人分配へー

 前述の通り、指定団体である芸団協は、機械的失業(技術的失業)に対する実演家全体への補償という立法趣旨に基づき、会員団体部門別分配を経て団体分配を行ってきたが、昭和六一年から分配に関する基本的見直しを本格化し、「商業用レコード二次使用料運営委員会」(当時)において、平成五年実演家著作隣接権センター(CPRA)(注)に引き継ぐまでに五六回検討を行った。  平成五年一○月一日に発足したCPRAは旧委員会の基本的見直しを継続検討し、平成六年には基本的考え方をまとめ、「分配は二次使用される商業用レコードに収録されている実演を行った実演家個人に対して行われるべきである。」と結論づけると共に、「権利者合意の下に実演家全体のために、芸能活動の振興、実演家の地位向上等の社会政策的事業に一部を共通目的基金として使われることが望まれる。」としている。  平成一○年八月には「CPRA拡充のための検討プロジェクトチーム」が発足し、同年一二月には検討結果をまとめ、その中で、「個別分配が原則であることの確認(JASRAC型の分配)」と共に「団体分配は原則として廃止の方向で検討する。」と述べている。  プロジェクトチームのまとめを受けて、平成一○年一二月CPRAは規約を改正し組織の見直しを行った。新しいCPRA(実演家著作隣接権センター)においてもこれまでの検討の積み重ねに立って二次使用料の運用について協議し、その結果、平成一一年度から部門別分配・団体分配を廃止し、分配金はすべて権利者分配に充てることを決定した。  なお、著作権審議会使用料部会は、平成四年三月一九日著作権及び著作隣接権の権利行使について関係団体のヒアリングを行い、権利者団体における著作権等の集中管理の在り方を検討したが、今後の課題として、公正な分配のための検討に言及し、「使用料等の分配に関しては、それぞれの使用料等の今日的な意味などを踏まえ、公正な分配が行われるよう、各団体内部で分配基準についての検討が行われることが望ましい。」と述べている。  共通目的基金に関しては、(1)芸能文化の振興及び普及に資する事業、(2)実演家の権利に関する調査研究及び権利擁護のための活動、(3)その他実演家の福祉向上に資する活動など、基金の執行原則を踏まえ、関係機関が承認し必要と認めた事業を対象としている。(注:CPRA共通目的基金は、基本的性格は、権利者の同意の下に分配を受ける権利者が拠出するものである。なお、私的録音補償金管理協会(SARAH)にも共通目的基金があるが、この場合は、権利者を特定できない場合に、その権利者の共通の利益のために間接的分配として共通目的に使用するものであり―sarah news 二○○一年六月vol.4 阿部浩二著作権情報センター付属著作権研究所長「補償金額の二割を公共目的へ支出することについて」参照ー、同じ共通目的でも両者は性格が異なる。)    (注) 実演家著作隣接権センター(CPRA)=芸団協は昭和三七年に始まった旧著作権法(明治三二年法律第三九号)の改正作業に並行して設立準備され、「著作権法の全面的改正という、全芸能実演家にとってまさに人格権と生活権の根底を左右する大問題」(設立趣意書)に対処するため、昭和四○年に設立された。芸団協は「芸能活動の推進」「地位の向上」等を目的として多目的事業を行っているが、実演家の権利管理という専門業務を分化して執行するため、専門機関として、CPRAを平成五年一○月一日に関係団体の協力の下に設置し、平成一○年一二月二一日には組織を再構築した。

11.むすび

 以上に見るように、商業用レコード二次使用料は労働法的、社会法的動機に促されて権利が規定され、このため機械的失業に対する実演家への補償という法的性格をもったが、権利の発展、制度運用上の成長によりレコードの使用データ、権利者データが整備されてきており、また、使用料額も発足時より相対的に拡大しており、こうした法制度の環境の変化に伴って、私権である知的所有権の原則に回帰していると言える。  しかし、一方で実演家はひとりで存在し、ひとりで活動するわけではなく、実演家全体によって支えられており、社会的、歴史的条件の中で実演を行っている。このため、権利者同意の下に実演家全体のために、芸能活動の振興、実演家の地位向上等の社会政策的事業に一部を共通目的使用として使われる実態にある。  「実演家個人への分配」を原則としつつ、「共通目的使用」を考えるところに実演家の権利の今日的意義があると思われる。実演家個々への分配という原則は論理的には当然であるが、なお、その原則を超えて、権利者の同意の下に、全体のために共通目的使用を目指すところに現代的法制度の萌芽があると思われる。  「個人のものを個人に」という私権の原則と「全体のために」という共同的精神の調和が共通目的使用であり、その調和を時代に合わせてどのように実現するかが課題であると考える。

〈あとがき〉

昭和四六年現在の著作権法が施行されたとき、実演家の権利についての啓蒙パンフレットを芸団協広報委員会がつくるのを手伝ったことがきっかけで、翌年四七年に職員としてわたくしは芸団協に入った。それは、著作権法第九五条に魅せられたからである。  わたくしは学生時代、近代市民法としての一般私法が発展して社会法が生まれると考え、そこに法のロマンチズムを永年感じていた。  第九五条の商業用レコード二次使用の立法趣旨に「機械的失業」(「技術的失業」)があることを昭和四六年に知った時(法律文は既に知っていたが、文理解釈からは立法趣旨は出てこなかった。)、心の中では長い間探していた恋人に会ったような気がした。  当時、第九五条は著作権法全体の発展を先取りした条文に見えたからである。私権を定めた著作権法全体が第九五条に引きづられて社会法的色彩をいずれ帯びるのではないかと思いこんだからである。  しかし、それは結果としては、わたくしの片思いであった。第九五条は法の発展した姿ではなく、発展途上の姿だったのである。「各人に彼のものを与える」という近代私法の原則に到達する途上の道として、団体主義を法制度は採ったのではないかと思う。それでもなお、わたくしは第九五条に魅入られている。それは、実務的には「共通目的」使用等によって、法のもつ個人主義的精神と団体主義的精神の調和が課題となるからであり、そこに近代私法の現代法的発展があるように感じるからである。  「半田正夫先生古希記念論文集」に小論を書く機会を与えられたことを光栄に思い、又、商業用レコード二次使用の立法趣旨に引かれて実演家の組織に入り、かなり雑なこの文章を書き終って組織を離れることを幸せに思う。

コメント

棚野正士 wrote:
清水芳明元芸団協職員の死

2010.8.28
IT企業法務研究所代表研究員・元芸団協職員 棚野正士

元芸団協職員清水芳明が8月17日急死した。享年61歳であった。清水は昭和53(1978)年芸団協に入り、平成13(2001)年退職した。この間、芸団協庶務部長、経営企画部長、貸レコード業務部長を務め、平成5(1993)年芸団協内の専門機関として実演家著作隣接権センター(CPRA)が設立されてからは、CPRA担当業務部長、CPRA総務室室長を歴任した。

1.商業用レコード二次使用料
わたくしは、小論「商業用レコード二次使用料請求権の運用にみる実演家の著作隣接権思想の変容」(「著作権法と民法の現代的課題―半田正夫先生古稀記念論集―」所収(法学書院 2003))にこう書いた。

「指定団体である芸団協は、機械的失業(技術的失業)に対する実演家全体への補償という立法趣旨に基づき、会員団体部門別分配を経て団体分配を行ってきたが、昭和61年から分配に関する基本的見直しを本格化し「商業用レコード二使用料運営委員会」(当時)において、平成5年実演家著作隣接権センター(CPRA)に引き継ぐまでに56回検討を行った。」

この転換期の委員会運営に伴う実務を清水芳明は事務局として担当した。正規の委員会だけでも56回開催されたが、清水はその運営を支えCPRA設立に貢献した。

2.貸レコード
また、貸レコード業務について、わたくしは、「貸レコード使用料分配ことはじめ」(機関誌「芸団協」1988.11.10号)に次のように書いた。

「芸団協で著作権法制度にかかわるしごとは、大きくは三つの段階に分けられる。初めは立法あるいは法改正の運動であり、それが実現すると次は法律を根拠に権利の行使をおこなう段階であり、そして三つ目は、権利行使の結果として使用料等を得た場合は分配する作業である。
三つのしごとは段階を追うに従い一般的には難しさを増す。これは、ある意味では浪漫に満ちた初期的段階のしごとから、具体的現実的な作業に移っていくからである。」
「貸レコードの場合も同様であり、日本レコードレンタル商業組合との折衝に15ヶ月、分配の基本に関して結論を得るまでに28ヶ月を要している。」
28ヶ月の間に、分配に関して関係団体が正規会議だけで27回の検討を行って分配業務を構築したが、これに関しても清水芳明が事務を担当し、実務的基盤づくりをした。

3.清水芳明の人間性

実演家の著作隣接権に関わるしごとは、法改正や権利行使に伴う契約については、対外的には利害が対立する相手との抗争となり、また、分配等については、組織の内部において権利者間の争いとなる場合もあり、時には感情的もつれにも発展するが、清水は権利に関わる辛いしごとにしんどい顔も見せず、しゃらっとして対応していた。不思議な雰囲気をもつ男であった。しかし、今考えると時には泣きたい思いを我慢していたかもしれない。
清水は金沢の星陵高校出身で頭の良い人間であった。上司のわたくしは太陽を浴び太平洋を望む南国高知に生まれ育った単純な“いごっそう”であるが、清水は“柳に風”のような融通無碍な性格で、どのようなことを言われても、どのように批判されても平気であたったし、どのような難しい仕事もすべて笑顔で受け入れた。
清水は芸団協に入る前は、クラッシックの演奏家の団体である社団法人日本演奏連盟に勤め、クラッシク音楽の音楽家たちと親しく、多くの会員から可愛がられていた。清水は不思議な魅力をもった愛すべき人間であった。音楽への関心は強く、芸団協では、著作権関連の業務以外にも“第二国立劇場(現在・新国立劇場)設立推進」の運動にも関わった。
なんでもこなす清水芳明にいろいろ難しい業務を押し付けながら、一方では評価し、また一方では批判をしながら愛すべき清水の人柄を頼りにしてきたが、今になって考えると、それがもしかしてストレスになっていたかもしれない。組織のストレスは想像を超えるものがあり、それが人の好い清水のこころとからだを蝕ばんでいたかもしれない。
これからが清水芳明の人生だと思っていた矢先に急逝したことは、本当に辛い。もしかして、言いたいことがいっぱいあったのではないかと考えると胸が痛む。辛いことも心の奥に秘めて死んでいったのでないかと思うと可哀想で仕方ない。かつての上司というより同志として、いずれ改めて“清水芳明のこと”を考えてみたい。今はただ感謝し冥福を祈るだけである。 以 上

2010-08-30 11:49:54

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