法制問題小委員会意見募集について

棚野正士備忘録

<「法制問題小委員会審議の経過」(以下、報告書という。)“2.私的録音録画補償金の見直し”(35頁)についての意見>(05.10.7提出)

1.現行制度における権利制限の意義

報告書の“権利制限の見直し”の基本的考え方に記されているように、権利制限は「権利者の利益と社会一般の利益との調整を図りつつ、著作権法がこれからも社会的認知を受けていくためには必要」(報告書2頁)なことであり、その一つとしての第30条第1項、第2項の意義は大きい。

2.機器・記録媒体の製造者の「協力義務」とは何か

2-1 第30条第2項を原則とした上で、私的録音録画補償金の支払の特例を定め(第104条の4)、製造業者等の協力義務を規定したことは(第104条の5)、20世紀における法制度上の“知恵”であり、21世紀においても、技術的進歩を裏づけとする法的理念の変化がない限り維持されるべきである。 2-2 日本の法制では、補償金の支払義務者は機器・記録媒体の購入者(消費者)であり、製造業者等が協力義務を負うが、外国では、ドイツ、フランス、オーストリア、オランダ、イタリア、ベルギー、デンマーク等報酬請求権制度を定める国はすべて製造業者が支払義務者である。 例えば、1965年に世界で最初に報酬請求権制度を導入したドイツは、私的録音録画について製造業者は消費者と共同責任を負う立場にあり、消費者と同様利用者であるという基本理念に立脚しており、製造業者が支払義務者であるという考え方は国際的調和になじみ易い法的思想である。 2-3 報酬請求権制度は権利者と利用者の利益調整であるが、この場合、「利用者」には消費者と製造者の両者が含まれると考える。 2-4 したがって、製造業者が「協力義務者」の立場に安座して制度を第三者的視点で論じるのは誤りである。製造業者は「第三者」ではなく「当事者」である。名目上協力義務者であるが、製造業者は実質的著作権利益の享受者であり、実質的支払義務者である。 報告書では、製造業者の「協力義務とは何か」についての基本的な認識が欠落しているのではないか。 2-5 製造業者が実質的支払義務者であるという認識に立てば、“消費者の認知度の低さ”“補償金返還制度の実効性の低さ”等(報告書37頁)は二義的な問題であり、制度の見直しに影響するものではない。 2-6 製造業者が私的録音録画に関して、著作物等の「利用者」であり「共同責任者」であることからすれば、私的録音録画に使用される可能性をもつハードディスク内臓型録音機器等、又汎用機器・記録媒体(報告書36頁、38頁)は当然に報酬請求権の対象となり、製造業者は可能性の程度に応じた支払義務を負わなければならない。 2-7 なお、著作物・実演等がなければ、機器・記録媒体は商品価値をもち得ず、又、逆に機器・記録媒体が存在しなければ著作物・実演等の市場的広がりはなく、報酬請求権制度は実質的には製造業者と権利者の利益調整であるという基本姿勢に立って、早急に問題が解決されなければならない。

3.共通目的事業への支出

3-1 報告書“(5)その他”で「補償金額の2割に相当する額を支出することになっている共通目的事業については、消費者から徴収した補償金ではなく国の予算で行うことを含め、その縮小・廃止に向けて検討する必要がある。」との意見(報告書40頁)が紹介されているが、この考え方は立法趣旨を無視するものであり誤りではないか。 3-2 共通目的事業への支出は、分配し得ない権利者への配慮として行う一種の間接分配であり(加戸守行「著作権法逐条講義四訂新版」610頁)、分配しうる権利者の受取分から徴収するものではない。このことは、「阿部浩二“補償金額の2割を公共目的に支出することについて”」(sarah news.2001.6 Vol.4)で明確に論じられている。

以上

提出者: IT企業法務研究所主任研究員棚野正士 101-0047東京都千代田区内神田2-2-6田中ビル6階 電話5207-5102/090-7941-8876

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