「EU特許」の創設が正式決定、イタリア・スペイン除く25カ国で先行導入

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「EU特許」の創設が正式決定、イタリア・スペイン除く25カ国で先行導入

 EU加盟国は10日開いた競争力担当相による理事会で、イタリアとスペインを除く加盟25カ国が域内共通の単一特許制度を導入することを承認した。加盟国のうち9カ国以上の「有志」による先行統合を認める仕組みを活用する。欧州議会は先月の本会議で共通特許構想を承認しており、加盟国の正式承認によりEU特許の創設が確定した。

 共通特許制度では、企業は英語、仏語、独語のうち1つの言語で欧州特許庁(EPO)に出願し、認可されればすべてのEU加盟国で同じ効力を持つ特許を取得することができる。現在もEPOに出願して「欧州特許」を取得する仕組みはあるが、最終的な認可権限は各国の特許庁が握っているため、特許を取得したい国の制度に合わせてそれぞれ書類を用意しなければならず、翻訳などの費用が企業にとって大きな負担になっている。欧州委員会は域内の特許制度を一元化することが技術革新を推進し、EUの競争力強化につながるとの立場から、2000年に共通特許の導入と、特許関連の紛争処理にあたる「欧州および共同体特許裁判所(ECPC)」
の創設をセットで提案。加盟国の間で協議が続いていた。

 共通特許の導入により、複数の国で特許を取得する際の出願手続きが簡素化され、翻訳などのコストを大幅に節減することができる。このため産業界は早い段階から概ね同構想を支持していたが、自国言語が選択肢から除外されることに難色を示すイタリアとスペインの強い反対で調整が難航。紆余曲折の末、加盟国は昨年12月、賛同国だけで先行導入する方針を決定し、当初は英仏独のほかオランダ、スウェーデン、フィンランド、ポーランドなど12カ国が参加を表明していた。

■EU特許裁判所はEU条約に「不適合」、欧州連合司法裁が見解
一方、欧州および共同体特許裁判所(ECPC)の創設計画をめぐり、欧州連合司法裁判所(EJEU)は8日、同構想は加盟国から「EUの機関および司法の枠組みから外れた」新たな機関への「著しい権限の移転」を伴うもので、EU条約に抵触するとの見解をまとめた。

 現行制度では特許関連の訴訟は国ごとに並行して進められるため、複数の国で審理が行われる場合、費用がかさむうえに異なる判決が出る可能性もある。
欧州委はこうした弊害を取り除くため、共通特許と共に単一特許制度を支えるもう1つの柱として、法律と先端技術に関する高度な専門知識を持つ裁判官が一元的に審理を行うシステムの導入を提案。これを受けてEU閣僚理事会は09年5月、EU法との整合性について欧州司法裁(現EJEU)に判断を求めていた。

 欧州委は同日、裁判所の見解を精査したうえで、特許裁判所の構想を抜本的に見直すとの声明を発表した。ただ、EU共通特許と特許裁判所はあくまでも「別個の事案」であり、EU特許の導入計画が裁判所の判断によって左右されることはないと強調している。

(European Commission Press Release, March 8, 2011/ Financial Times, March 10, 2011 他)

(庵研究員著)

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