EU12カ国で「共通特許」を先行導入、使用言語で溝埋まらず欧州委が提案

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EU12カ国で「共通特許」を先行導入、使用言語で溝埋まらず欧州委が提案

 欧州委員会は14日、EU共通の単一特許制度の創設に向け、構想を支持する英独仏など12カ国が他の加盟国に先行して「共通特許」を導入する計画を打ち出した。EUはすべての加盟国で有効な「EU特許」の導入を目指しているが、出願時の使用言語をめぐる対立が解消されないため、一部の加盟国が特定分野で先行的に統合を進める「強化協力(enhanced cooperation)」の枠組みを活用する。実施には欧州議会の承認と加盟国の賛成多数が必要で、欧州委は14年までに「有志」による共通特許制度を創設したい考えを示している。

 現在EU内で特許を取得する仕組みとしては、各国で出願して個別に審査を受ける方法と、欧州特許庁(EPO)に出願して「欧州特許」を取得する方法がある。
ただ、欧州特許も最終的な認可権限は各国の特許庁が握っているため、特許を取得したい国の制度に合わせてそれぞれ書類を用意しなければならない。欧州委によると、EU域内の13カ国で特許を取得するために必要な費用は合計2万ユーロと米国(平均1,850ユーロ)の10倍以上に上り、このうち翻訳費用が約7割を占めている。一方、共通特許制度が導入されて1言語による出願・審査が可能になれば、翻訳費用は700ユーロ程度に抑えられ、EU特許の登録費用は6,200ユーロ以下に収まると試算している。

 こうしたなかでEU加盟国は昨年12月、域内の特許制度を一元化することで合意し、すべての加盟国で同じ効力を持つEU特許を創設すると共に、特許関連の紛争処理にあたる「EU特許裁判所」を設置することを決めた。欧州委が2000年に「共同体特許に関する規則(案)」を打ち出してから約10年を経て、EUはようやく単一特許制度の創設に向けて大きな一歩を踏み出した形だが、共通特許の使用言語をめぐる問題が最後の懸案事項として残った。自国言語が選択肢から除外されることにスペインとイタリアが難色を示したためで、加盟国は使用言語に関して別途ルールを設けることで合意。これを受けて欧州委は今年7月、EU特許の創設に合わせて英語・仏語・独語のうち1つの言語だけで出願できる仕組みの導入を提案した。

 欧州委案によると、EU特許ではEPOが認可権を持ち、企業はEPOの公用語である英仏独のいずれかの言語で書類を作成すれば済むため、特許を取得したい国ごとに必要書類を翻訳する手間が省け、従来に比べて少ない費用で27カ国すべてで有効な特許を取得することができる。加盟国の大半は同構想を支持しているが、スペインとイタリアは依然として自国言語が選択肢から除外されることに強く反発しており、協議は暗礁に乗り上げていた。このためEU議長国ベルギーは現状では全会一致の合意は不可能と判断。有志による先行導入に向けて必要な手続きを進めるよう欧州委に要請していた。

 現時点で共通特許の先行導入を希望しているのは英独仏のほかオランダ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルク、ポーランド、スロバキア、エストニア、リトアニアの計12カ国。先行導入を見送った加盟国も後から参加することが可能で、参加していない国の企業も共通特許制度を活用することができる。ただし、共通特許の有効範囲は同制度の参加国(12カ国でスタートする場合は12カ国)に限定される。

(European Commission Press Release, December 14, 2010 他)

(庵研究員著)

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